其々の旅路

伯馬(リウハ)のオリジナル小説

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管理人:伯馬もしくはリウハ
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笑師 05-1
05-1
 目を覚まして最初に思ったのは、最近よく気絶するなぁということだった。大体気絶って眠っているのと差して変わらないんじゃないだろうか。
 目を開けて体を起こすと、まだあのアパートだということがわかる。なんてったって薄暗い。
 周囲をぐるり見渡すとそこには扉が合ったのでここが部屋なのはわかる。けれど灯りは天井からぶらさがっている皿に乗った三本の蝋燭だけ、薄暗いのはその所為だろう。
「よぉ、起きたか」
 扉が開いて顔を出した鵺はぎゃははっ、と笑ってから手に持っていた盆を僕の傍に置いた。……ていうか僕は床に寝ていたわけか、通りで腰が痛いわけだ。
 盆にはホットサンドが六つと缶ジュースが二本。……鵺は抵抗ないのかな、気になる。
「柊たちは?」
「儀式に疲れて寝てる。俺は慣れてるけど、あいつらはこれが二回目だからな、精神削ったんじゃねぇか」
「儀式……」
「そ、儀式。これでお前は魔力に当てられなくなった。それと……お前がちゃんとアイツなのかを確かめたんだよ」
 アイツ……? あぁそういえば名前がどうだとか。僕は何かを言ったような気がするけど全く内容を覚えていない。
 ……聞いてもいいんだろうか。
 ひしひしと伝わってくるのは、いつもとどこか違う鵺の雰囲気。どこか緊張しているような、躊躇っているような、おそれているような、なんとも言えない複雑なそれだった。
「鵺、」
「んー?」
 ホットサンドの二つめを食べながら鵺は返事とも言えないような声を出す。否定拒絶はされていないようだけど。
「……なんか魔力使ったらしいけど、なんのため?」
「んぁ?あぁ、儀式の前か?」
 やっぱり聞く気になれなくて、仕方ないので僕が聞きたかったことを口にした。花が早とちっちゃったけど、僕が何より聞きたかったのはこれだ。
 僕が魔力に当てられたのは魔力が使われたから。じゃあどうして魔力を使ったのだろうかと気になっていた。
「事実改変さ」
「……した、ってこと?」
「そう。お前、考えなかったのか?」
「何を?」
 しかし鵺も柊も花も……わかりづらい会話をする。もうちょっと前後の文脈をはっきりさせて喋ってほしい。いちいち聞かなきゃいけないじゃん。
 鵺はくぁ、とあくびをした。
 そういえば入ってきた瞬間以外、鵺は笑っていないな、と何となく思った。
「お前が元の世界から消えたら、お前を知っている人たちはどうなるのか、だ」
「……花の時の、僕以外みたいになるんじゃ?」
「それとは少し違う」
 ホットサンドの三つ目を手に持ち、もう一方の手で缶ジュースを持つと、鵺は盆を僕の方にずいと差し出した。夕食なのだろう、とりあえず僕は缶ジュースを開けた。
「花の場合、本来は無かった存在をねじ込んだだけだ。消去してもただ元に戻るだけだろ?」
 鵺も缶ジュースを開けながら言う。言葉が切れるとがばっと三五〇ミリリットルを一瞬で腹に収めてしまった。
 ……鵺は見かけ通り細かいことは気にしない性格みたいだ。缶ジュースやホットサンドには違和感なんて感じていないに違いない。
「けど、お前や俺たちは同じ手段であの世界に行くわけだが、この場合はあるはずのものを無いようにしなけりゃならない」
 鵺はぐしゃりと缶を握り潰す。僕はホットサンドを食べ終え、残った缶ジュースを口に運ぶ。
 鵺が胡坐の片足をぱん、と叩いた。……いや、打った、というべきだろうか。
「さて、違和感が生まれるわけだ。人の記憶を改変してもどうしても生じる違和感。なんだ?」
「え? えっと……」
 缶ジュースを飲むことを止め、僕は思考する。鵺は真面目な顔つきのまま、ぐるりと首を回した。ぐきり、といい音がする。
「……教室?」
「違う。机を消せばそんなに気になるほどの違和感は生まれない」
「……あっ、僕の部屋!」
「そう」
 にやり、ようやく鵺は笑った。どうやらこの話をしに来たらしい、その証拠にぎゃはは、と笑って見せた。
 うん、鵺はそうじゃないと。真面目にしてるのも悪くはないけど、そうやって笑っているほうが見慣れているから。まぁ、長い付き合いな訳じゃないけどさ。
「他には?」
「えっと……住民票」
「んなもん書き替えられる」
「なら……写真」
「ん、それも正解。まだある」
「えー……? 記憶は変えれるんでしょ?」
 さっぱりわからない。
 部屋、写真……でも住民票は書き替えれるって? なら……ん、もしかして、
「寄せ書きとか手紙とか?」
「ビンゴ」
 げらげらと鵺は笑う。けど鵺、ビンゴって言葉使うんだね……。
 部屋に写真に僕が書いたもの。それらは事実改変で一体どうなってしまうんだろう。
「まずは、部屋」
 僕はまだ残っていた缶ジュースの中身を飲み干して盆に置いた。何故か鵺はそれを持ち、ぐしゃりと潰す。……気付いたけど、それもあっちもスチール缶じゃん……。
「事実改変によって、お前の存在は無かったことになる。家族や友人の記憶から消える」
「……うん」
 わかっていたことだ。僕は元いた世界ではなく、もう一つの世界を望んだのだから。
 それでも――やっぱり少し淋しかった。
 わかっていたとしても。
「だがお前の部屋はお前の家族がいる部屋の一部だ。間取りを変えちまうのはさすがに不自然すぎる。だからその部屋から『違和感』を消しちまうのさ」
「違和感を、消す?」
「そう。さっきの事実改変で、お前の部屋はもぬけの殻だ。何もない、あるのはカーテンくらいになる」
「それが、違和感……」
「だから家族の意識を少しいじるんだ。『存在しているけど気にも止めない部屋』になるようにな」
 ……つまり、僕の部屋はすっからかんで、そして父さんも母さんもその部屋が何もないのを知っていて、でも違和感は一切無い……のか。
 意識を少しいじる、か。もうなんでもありだな……。
 ……もぬけの殻?
 何もない部屋……。
 なんだ? 何かが引っ掛かってる……。
「写真も似たようなもんだ。写真からお前は消える。微細な違和感は残るが、誰も気にしない」
 家の間取りは変えないで、部屋の存在を消す……。
 あるのに、ない部屋。
「手紙は消しちまう。寄せ書きもお前の場所だけ消えるが、やっぱり誰も気にしない」
 意識しない。
 あってもなくても変わらない。
 でも確かに存在していた部屋。
「事実改変っていうのは、つじつまを合わせるみたいなもん……おい、ハジメ?」
「僕は、……僕には兄がいたんだ……」
「はぁ? あの家にいた子供はテメェだけだろ。……おい、まさか、」
「僕の部屋の隣に……存在が消えた部屋がある……」
 そうだ……そうだよ、僕の部屋の扉の隣には扉がある。今まで一切気にしなかったし、父さんも母さんも気にしていなかった。あの部屋には……二つ年上の兄が、そうだよ、兄がいたんだ。
 僕は兄さんなんて呼ぶことはなかったんだ……そうだ、モトイ、基だ、兄の名前……。
「……迂闊だったかもな」
「え?」
「そいつも俺たちみたいな笑師だの空使だのだったらいいんだが……顔、覚えてるか?」
「少しだけ……」
 でも思い出す兄の顔は、中学生くらいだった。ぴしっと制服を着ていたのが印象に残ってる。
 ……でも、兄と一緒に中学校に行った記憶はない。
「ったく……面倒なことになってきやがった」
 鵺はそう吐き捨てるように言うと潰れたスチール缶を僕に投げてよこした。がしがしと頭をかいてから僕を見て、にやと笑って、僕を、いやきっとスチール缶を指差した。
「それ、回帰してみ」
「……は?」
 まるで簡単なことのように鵺はそう言って笑った。そしてそのまま部屋を出て行こうとするので僕は慌てて鵺を引き止める。
 何か勘違いしてるって! 僕は無意識でやってたんだしコツとかなんかこう……あるじゃん。
「お前は素質あるから出来るって」
「この際有っても無くても良いから! でもほら、呪文だとかなんかあるじゃん!」
 鵺はぎゃははとまた笑う。いや笑い事じゃないっ!
 僕の空間回帰能力とかはみんなに必要な能力らしいから、できなかったら困るわけだし。
「イメージするんだ」
「何を?」
「その潰れた缶を見ながら、潰れてない状態をな」
 あっさりとそういうので僕は拍子抜けしてしまった。
 呪文なんかない、この世界を望んだときから備わっている能力。
 イメージする?
 この缶が……潰れていない状態を。
 ――僕は目を閉じる。
「っぅわ!?」
 途端、パンッと弾けるような音が響いて僕は思わず目を見開いた。
 鵺が僕を見て、ひゅう、とわざとらしい口笛を吹く。
 目の前には潰れていない、どころかプルタブが開いてすらいない缶があった。
「これ……」
「お前……すっげぇなぁ。あの風祭だって流石に――」
 そこで鵺は、しまったというように口をつぐんで僕をみた。
 風祭……そうだ、僕が口にした「名前」だ。
 儀式、とやらを行っている時の記憶は最後の方が途切れているけれど、そこだけ思い出した。
「風祭?」
「あー……なんつぅか、今の段階じゃあまだ説明できねぇんだけどよ……」
 なんだかそんなことばっかりだ。
 確かにRPGだと伏線が山ほど張ってあったりして、主人公はそれに振り回されたりするけれど、僕は主人公じゃない、と思う。
 柊かもしくは花だと思うんだけどさ?
「柊が『鼓音(つづみね)』で、花が『翔』で、お前が『風祭』なんだ」
「……前世とか?」
「その名前が何を意味しているのかはまだ話せない。理由を知っているのは俺と長だけだ」
「鵺の名前は?」
 鵺はただ、笑うだけだった。


≫05-2
| 笑師 | 18:16 | comments(0) | - |
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