其々の旅路

伯馬(リウハ)のオリジナル小説

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笑師 05-2
05-2
 あれから、僕はひたすらに空間回帰の練習をさせられることとなった。
 あの後すぐに目を覚ました柊と花が部屋に来てそれこそ取り留めのない会話をした後にね。
「だから何回言えばわかるのよ。ぱんってやってひゅんっ!」
「んな説明じゃわかんないってば!」
「ひゅんじゃなくてぴゅうんっ、だと思うんだけどな……」
「いや問題にしてるのはそこじゃないから!」
「ばしんっ!ぎゅんっ!だろ」
「あーもぅっ!」
 事実改変の方法を聞いたらこんなような答えばかりが返ってくるのだから、もうからかわれているとしか思えない。
 僕はいまいち自分の能力をコントロール出来ていなかった。
 最初に回帰したスチール缶は中身が入っていないのにプルタブが開いていないというちぐはぐなもので、もう一つを回帰してみるとプルタブは開いていて中身も入っているけれど中途半端にひしゃげたままだった。
「イメージが弱いのよ! もっと確固たるイメージを持たなきゃ」
「あんまり力みすぎないようにすればいいんじゃないかな」
「お前の能力に関して直接的な助言は難しいな」
 だから助言を求めたんだけど……僕の能力は三人ともと違うものだから仕方ない。けど、うん、そういう助言がほしかったんだよ。
 だけど空間回帰について利点と欠点が浮かび上がった。
 まず、利点。それは一つ前に戻した状態から一つ後に戻せる、ということ。つまり僕は、先程中途半端に回帰した二つのスチール缶を鵺が握りつぶした状態に戻すことができた。
 欠点は「僕が戻す前の状態を知っている」モノでないと回帰できないということだった。つまり今、どこかからぐしゃぐしゃになったスチール缶を持ってこられても僕は無力だった。概念を持っているのに回帰できないのは何だか物凄くイライラする。
「そうだねぇ……長がいれば何とかなるのかもしれないけど……」
「そういえば長はどこに行ったわけ?」
 柊は言葉を鵺に向けた。鵺はさあなぁ、と誤魔化そうとしたんだけれど柊に睨まれ花に微笑みを向けられ、降参というように両手をあげて笑った。
「調べモノをしてもらってんだよ」
「そんなことわかってるわよ。何を調べさせてるの」
 鵺は歯切れ悪そうにがしがしと頭を掻いてから仕方ないよなぁ、と誰かに小さく問いかけているように呟いた。
 そして何故か、僕をちらりと見る。
「ハジメの兄貴がこの世界にいる可能性が極めて高い」
 え、と声を発して花と柊が僕を見た。成る程、説明は僕がしろってことか。
 僕は掻い摘んで消えた兄と消えなかった部屋のことを話した。掻い摘むってよりは二人とも知っているだろうことは話さなかった――が正しいかな。
「それはあり得ることなの?」
 柊が困惑を露わにしながら鵺に向いた。鵺はやはり歯切れ悪そうに、けれどどこか割り切ったようにそれに答える。
「現段階では何とも言えねぇがな、状況が余りにも酷似しているからこの世界にいるのは間違いないだろうよ」
 僕は少しずつ、消えていた兄、基に関する記憶を呼び起こしていた。
 基は頭が良かった。利発で、運動神経も良かった。分け隔てなく他人とつき合える人で、いつも笑顔だった。
 ただ時々、基は不思議なことを口にしていた気がする。その内容まではまだ思い出せていないけれど。
「ただ……そいつが笑師だの笑姫だの空使だのだったらいいんだけどな、ホウシャみたいなレツアクだったら困ったこ……、」
 そこまで言って、鵺はしまった、と口を閉ざした。
 鵺は性格の問題なのかなぁ、治した方がいいよ……?
「ホウシャ?」
「レツアク?」
「鵺、私たちに何か隠してるよね……?」
 僕、柊、花が言えば、鵺は困ったように笑いながらまたがしがしと頭をかいた。
 ……あれ、ちょっと待って。
「ねぇ、花はどうか知らないけど、柊って江戸前期にこっちに来たんじゃないの?だったらなんづこっちの世界のこと全然知らないわけ?」
 擬音化してみれば、まさに「ぽかーん」だった。……え、何か変なこと言った……?
「信じてたの?」
「え、」
「私、大正生まれよ」
「はいっ!?」
 ちょ、ちょっと待て!確かに柊は江戸前期だって言ったのは、嘘!?
 僕が困惑しながら柊を見ていると柊はあきれたような表情で僕を見ていた。その横では花がふるふると肩を震わせていたけれど顔を上げて僕と目があった、途端きゃははっと笑い始めてしまった。
「ハジメって素直だね」
「褒められてるのか貶されてるのか微妙なラインだよね、それ……」
「褒めてるの」
 尚もけたけた笑っている花を見ている限りそうは思えないけどね……。
 柊が呆れたようにため息をついて僕の名前を呼んだ。
「私の名前を言ってみなさい」
「斉藤柊……でしょ?」
「江戸前期の女性って名字を名乗れたかしら?」
 ……うーん、確かに。
 それは僕の思考が追いつかなかっただけか。柊にしてみればきっとそこで僕が突っ込むのを信じていたんだろう。
「私は大正生まれ、昭和五年にこっちに来たわ」
「私は昭和生まれだよ。平成二年にこっちに来たの」
 花は依然けたけた笑うのを堪えながらそう言ってくれた。
 いや何も泣くほど笑わなくてもいいんじゃないかな……。
 ……ん、ちょっと待てよ。
「あれ、……鵺っていつの時代の人だっけ?」
「俺か? あー……、室町時代……って言えばわかるか?俺がこっちに来てから応仁の乱が起こったんだよ」
 鵺はさも当然というようにさらりと言ったけれど……それっておかしいよ。
 今は室町時代から少なくとも五百年は経っている。応仁の乱が起こったのは一四〇〇年代半ばだったはずだから。
 鵺はそんなにも長い間僕たちを待っていた計算になる。そんなの絶対におかしい。変だ。
「ハジメは気づいたみたいだな」
「え?」
 こいつら気づかねぇんだ、と鵺は呆れたように笑いながら柊たちを見た。
 柊たちは気がつかなかったのか……まぁ二人は細かいこと気にしなさそうだからね。
「確かに俺はお前たちに隠していることがある」
 仕方なさそうな笑みを浮かべながら鵺はそう切り出した。
「まだまだお前たちに教えるべきことはあるんだが……今はまだその時期じゃない」
 柊も花も驚いたように鵺を見ているのは二人とも僕と同じくらいの知識しかないから――なのだろう。
 何か理由があるのだろうか?そんなにひた隠しにしなければならない理由が……。
「待たせたな」
 考え込んでしまったからだろうか? 僕には扉が開いたようには感じなかった。声が聞こえて顔を上げてみれば、扉近くに長がすでに立っていて、フードを外そうとしているところだった。
 鵺が振り向きどうだった、と問うと長はこくりと頷く。
「田中モトイという存在を一人だけ確認できた」
「だろうな。年齢は?」
「実年齢までは把握出来なかったが、見た目は十三程度」
「僕が知っている基の最後の姿がそのくらいだよ……」
 基がいる。
 まだ完全に思い出した訳じゃない。
 だけど記憶の片隅に、確かに基はいる。
 そして僕がいた世界とは違う世界にも。
「ハジメが知っている名前とは漢字が違うようだがまだ詳細なデータが出ていない、よって不明」
「ロールは?」
 ……ロール?
 柊と花を見れば二人ともぽかんとしているので聞いても無駄だろう。
「レツアクに属する、ツイシャ」
 鵺が舌打ちをした。


≫06-1
| 笑師 | 18:17 | comments(0) | - |
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