其々の旅路

伯馬(リウハ)のオリジナル小説

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管理人:伯馬もしくはリウハ
サイト名:其々の旅路
アドレス:http://riu89ma.jugem.jp/
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笑師 06-1
06-1
 レツアク、ホウシャ、ツイシャとは。
結局、鵺が教えてくれることはなかった。まだ時期じゃない、と言って逃げるのかと思っていたけど、そうじゃなかった。
「別にしてもいいんだけどよ、齟齬だの語弊だの欠落だのが出たら拙いだろ」
 鵺にそんな配慮があるとは驚きだったと僕が口にすれば、鵺はそれを笑って否定した。なんだか僕の考えがことごとく外れてしまうのはどうしてだろう。
「そんなことになってお前等が混乱しないように、って言われたんだ。だからこれから連れて行く場所である男と一緒に説明する。そうするように約束したんだ」
 柊が、約束した相手は誰なのかと聞けば、鵺はただ笑うだけだった。彼特有の下品な笑い方ではなく、薄く微笑したのだけれど。
 長が報告をして鵺が舌打ちをしてから、一度睡眠を取ったので時間的に今は朝。要するに日付を跨いだわけだ。何故か電池が減ることのない僕のケータイも朝の八時を示している。
 どうやら「僕たちの」世界には朝昼夜というものがないらしく、窓の外はずっと明るいままだった。太陽すらも成長――とは少し違うけれど――を止めてしまったのかもされない。ただ移り変わりはあるようで、今は春なのだそうだ。比較的暖かい気候が続き、さめさめと細かい雨が時折降るらしい。
「ある場所ってどこ?」
 学ランのまま寝たからなんとなく体が重い。疲れが取れてないのだろう。
 旅支度のようなものを整えている長と柊と鵺を見ながら、僕と花はただ見ているだけだった。花もまだ旅らしい旅をしたことがないのだそうだ。旅と言っても旅行ではなくそれこそRPGのような旅だが。
「行けばわかる」
「鵺ってばそればっかりね」
「そうかもな」
 鵺がぎゃははと笑うと同じタイミングで長が僕の前に立った。
 僕より低い背でじぃっと僕を見上げている。フードは被っていないけれどフードがついた真っ黒いロープのようなものを両肩に掛け、首もとの橙色の紐で絞っていた。
「鵺、おそらくあれのままで大丈夫だろう」
「おぉ、そっか」
 言って鵺は僕の前に立ち、前に花にしたように人差し指と中指を合わせて伸ばした右手をすっと彼の顔の左から前までまっすぐに伸ばした。
「継続、装填、空使」
 単語を並べただけのそれは呪文だったのだろう。僕の身にまとっていた学ランが一瞬で変化した。
 足元から見ていくと、濃い茶色のショートブーツに、薄いとも濃いとも言えないけれどどちらかと言えば濃い緑のようなパンツ、バックルが小さな茶色のベルトとノースリーブの濃いベージュっぽいシャツ。
 そしてその上に、不釣り合いなほど綺麗な空色の、腰まですっぽり覆うマントがあった。首より下、胸の近くで緩く紐が結んである。
 ……花の衣装もちぐはぐだと思ったけど僕ほどじゃないな。
「わ、似合う」
「……そう?」
 花がきゃいきゃい言いながら僕のマントを掴んでぱたぱたと遊ぶので鵺が苦笑した。
 ちらりと荷造りをしている柊を見れば僕なんか見向きもせず黙々と作業をしている。
「花、ちょっと離れてろ」
 ふと鵺が花の腕を引っ張って僕から離れさせた。そしてまた指をあの形にして今度は直接僕を示した。
「レギュラー確定」
 しゅん、と不思議な音が鳴った。
 けれどそれ以外に特別何が起こったわけでもない。僕はあの服のままだった。
 けれど鵺はその「レギュラー確定」とやらがしたかったのだろう、満足そうに笑うとまた荷を作りに戻った。
「あら、やっとレギュラー確定したのね」
 ふと何故か目の前に柊がいた。どうやら花の荷物を渡しに来たらしい。リュックサック一つくらいの小さな荷だ。
 柊はふぅん、と溜息のような声を漏らしながら僕をじぃっと見て、
「悪くないんじゃない?」
「ものすっごい普通なコメントだね……」
「あら……、そうね、じゃあ……」
 そこで言葉を区切って柊は一瞬後ろを向き、くるりと振り返った。
「きゃー、ハジメ格好いいー」
「棒読み!」
「惚れちゃいそうー」
「言い過ぎ!」
「ふふ、」
 僕と柊のそんなやり取りを見ていた花がくすくすと笑った。それにつられて柊も笑い、それにつられて僕も笑う。
 柊とこんなやりとりをするのは久しぶりだなと思いながら。
「おい、和気藹々としてんじゃねぇよ、手伝え」
「あー、仲間外れにされて拗ねてるー」
「拗ねてるー」
「アホか」
「きゃーっ」
「あはははっ」
 花と柊にからかわれながらも鵺もどこか楽しそうで、僕は鵺に手渡された五人分の荷をさてどうしようと棒立ちしているだけ。それでもそんなやりとりを見ているのは楽しかった。その間、フードどころかローブすら纏っていない長は黙々と作業をしていたけれど。
 結局、出発しようと鵺が言ったのはそれから一時間ほど後のことだった。道を知っている案内屋の長を先頭に、花と柊が並び、その後ろに僕と鵺が並んだ。移動手段は徒歩だけらしい。
 今この場所は、間違いなくあのアパートだ。どうやら部屋は四つしかないらしい。扉が五つある大きな部屋と、その扉のうち三つが部屋に繋がっている。何故か、外への出入り口は二つ、それも向かい合わせにあった。
 僕が目を覚ました場所は、他三つの部屋のうちの一つ。もう一つの部屋は洗礼室であり、さらにもう一つは僕が目を覚ました部屋と同じようなつくりになっているらしい。そこで柊と花は寝起きしていたのだろう。
「部屋の中心に立て」
 長は出発すると決まってからローブを纏い、フードを被った。指示に従って鵺、柊、花、僕の順番に一番大きな部屋の中心に立つ。要するに、五つの扉がある部屋だ。どうやらホールと呼ばれているらしい。
「どきどきする?」
「え?」
「私は、したわ」
 柊が僕を少しだけ見上げて、くすりと笑った。その表情はどこか確信じみていて、僕も少しだけ笑み返す。
「うん、してるよ」
「理由は?」
「……新しい自分、とか格好いいこと言いたいけど、そうじゃない」
 これがもし主人公なら、気の利いた言葉の一つや二つ、さらりと口から出てくるのだろうけれど、生憎僕にはそういった「主人公気質」が無いらしく、ありきたりの言葉しか出てこない。
「柊たちと一緒に、冒険みたいなことが出来るから。だと、思う」
「……あなたは、それでいいんじゃない?」
 柊は薄く笑って小さくそう呟いただけで、すぐについと顔を逸らせてしまったけれど。
 うん、僕もそう思う。何か格好つけたことを言うよりも、自分が思ったままを口にするのが僕だろうと思うから。
 今ここに、柊がいて、鵺がいて、花がいて、長がいる。そしてこれから僕が待ち望んでいた物と同じかどうかはわからないけれど、新しい世界へと進む。
 その事実が、ひたすらに僕の鼓動を高鳴らせた。
「柊、南に向け。花は東、ハジメは西だ。長を真ん中にして、俺が北を向くから」
 鵺の言葉に、僕達は指示された方向を向いた。長が中心に立ち、その小さな体を囲むように僕達は立つ。
 足元に、紫色の魔方陣が浮かび上がった。
「今、宣言されし、定め決まった我らが道、笑姫の花に従いて、世界を導き世界を救え」
 長が言う。いや、唱えると言った方が正しいだろう。僕らの中心で屈みこみ、床に両手をついている。たぶん魔方陣を描き出したのも彼だ。
 北を向いていた鵺が、僕の右手を取った。おそらく鵺の右手は花の左手を取っていることだろう。僕は反射的に左手で南の柊の手を取った。
 足元の紫色の魔方陣が膨張するかのように大きく広がった。北、南、東、西にそれぞれ突起のように円が歪み、そのうちの東、つまりは花のいる方向の突起が、すぅっと伸び出た。
「開け。今こそ旅路の時。向かうは東、アヤの元へ」
 花の向かいにあった扉――入ってきた時の扉とは正反対に位置しているその扉が、勢いよく開いた。
 開いた途端、溢れんばかりの眩い光。思わず目を瞑ってしまうほどの強烈な光は、細まるかのようにすぅっと細くなった。それにあわせて、僕もゆっくりと目を開く。
「……あれ?」
 自然と柊、鵺の手が離れ、僕らはいつの間にか、開けた大地に立っていた。驚いて後ろを振り向くとそこには花がいるだけで、彼女も振り向いていたのだろう、僕を見るときょとんとしていた。
「……慣れないわ」
 隣で柊がゆっくりと息を吐き出した。僕と花は同じようにきょときょとと辺りを見回している。鵺と長はまるで何事も無かったかのようにただそこに立っていた。
「えっと……これ、何が起きたわけ?」
 僕は誰に問うでもなくそう聞いた。鵺はぎゃは、といつもの調子で笑うので、仕方無さそうに柊が僕に向いた。
 隣では花も僕と同じような表情をして、まだ周りを見回していた。
「あのアパートの管理人は、長よ。長の役割は『案内屋』だから、こうやって移動するの」
「…………ごめん、その『こうやって』を説明してもらえる?」
 柊の曖昧な説明に、僕も花も首を傾げてしまいそうだった。僕の問いに柊はきょとん、と目を丸くして、それからまた信じられないことを口にする。
「知らないわ」
「へ?」
「この移動方法を使うのは何度目かわからないけれど……、原理は知らないの。こういうものなのでしょ?」
 ねぇ? と柊が言葉を投げかけた先は鵺だった。鵺は苦笑のような曖昧な笑みを浮かべて、ははは、と彼らしくない笑い方をする。
「悪ぃな、柊。お前に教えてる知識は半分以上がウソなんだ。真実も教えてるんだけどよ、時期が来るまで教えるわけにはいかなかったしな」
 何となく、それは予想していたことだった。柊は不快そうな表情をしているけれど、花も驚いたように目を丸くしているけれど、僕にとってはあまり驚くべき事実じゃない。
 柊が江戸前期の人じゃなかったとわかった瞬間に、あぁもしかしたら柊が僕に教えてくれた事はほとんど間違っているんじゃないだろうか、と思ったから。
「じゃあ、僕が柊から聞いた知識は全て忘れていいの?」
「あー……それはだな、」
「後にしろ」
 長が痺れを切らしたように溜息混じりにそう言った。彼はフードを被りなおし、前を向く。さぁ……と風が吹いて、そのフードを揺らした。
 長が持っている荷物はやけに多い。手ぶらなのが僕だけなので、何となく僕は彼の傍に歩み寄って手を差し出した。それだけで僕が何を求めているのかわかったのだろう、長は大きいほうの手提げを僕に渡した。
「アヤのところで話せ」
「……つーかお前が話してくれればいいんじゃねぇかよ」
「私は案内屋。導くのは『受け継ぐ者』のお前だ」
「頭かってぇの」
 長はそれには何も反論せず、そのまますたすたと歩き出してしまった。
 ……今の、どういう会話だろう。
 長と鵺が、仲が良い……と言えば語弊があると怒られるだろうけれど、気心の知れた仲ではあろうことは今までの会話を聞いていればわかる。柊と花と僕よりも、桁違いに長い時間を二人は共に過ごしている空気があることも、わかっている。だけど、どうして二人だけがそんなにも昔から知り合っているのかが、わからない。
 風祭、鼓音、翔という三人が関わっているのか、それともこれから向かう先にいる誰かが関わっているのか。
 ……わからないことが多すぎる。
 どうやらこの物語の主人公は、鵺のようだった。


≫06-2
| 笑師 | 18:18 | comments(0) | - |
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