其々の旅路

伯馬(リウハ)のオリジナル小説

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管理人:伯馬もしくはリウハ
サイト名:其々の旅路
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笑師 06-2
06-2

「どのくらい?」
「ん? あぁ、そんなに時間はかかんねぇよ」
「あの移動方法って、案外不便なんだね」
「まぁな。ある一定場所に送ってもらうだけだから、そこからは歩きだ」
「交通機関とかはさっぱり無いんだ?」
「こっちの世界にはほとんど生産能力がねぇからな。交通手段は歩きか走りかどっちかだ」
「……それ、同じだよね」
「ぎゃははっ、そうだな」
 先頭に長、その後ろを僕と鵺が並んで歩き、さらに後ろを柊と花が並んで歩く。柊と花は女の子らしい会話――に僕は聞こえる――をしていて、でもまぁどちらかといえば花が一方的にきゃいきゃい騒いでいるだけだけれど。
 長に渡された手提げは、大きさの割には軽かった。何が入っているのだろう。僕の手提げよりも少し小さめの鞄を長は一つ持ち、鵺は僕よりも大きな手提げを持っている。柊と花は小振りなリュックのような鞄を一つずつ、背負うのではなく手に持っていた。
 のどかな風景が、視界の端に延々と続いていた。所々に建物があったり、鹿や馬に似た何か――断じてあれば鹿や馬じゃなかった――がまるで放牧されているかのようにのんびりと過ごしていたり。僕たちが歩いている道はそこそこに舗装というか、均されていて歩きやすかったけれど、山がいくつか見えるから平らな世界というわけでもないのだろう。ただ、日本を歩いているような感覚でもない。行ったことは無いけれど、アメリカとかオーストラリアの田舎はこんな感じじゃないかなとは思う。
 延々と、道が続く。どこまでも、果て無しなく、まるでこれからの僕らの旅路のようだ。
 僕は、果てを知らない。
鵺は知っているのかもしれない。
そんな感じ。
「鵺はこの世界で僕達を待っている間、何して過ごしてたの?」
「それもそのうち、教える」
 不思議なことはいくら歩を進めても疲れないし空腹感も無いことだった。まぁきっと、「こういうもの」なのだろう。
これが本当のRPGならもう何度も戦闘をしているはずだ。僕の能力は不完全ながらも扱えているのだし、最初のレクチャーは終わっていると思う。もしかしたら所謂「魔物」だとか「モンスター」と呼ばれる存在が無いのかもしれない。
「じゃあ、柊と一緒になってからは?」
「柊と合流してから? 花と合流するまでは、俺と柊で元の世界をぐるぐる歩いてたな。花と合流してからは俺が一人、柊と花の二人で、やっぱりあっちの世界にいた」
「目的は?」
「ねぇよ。お前がこっちの世界に来るまでの時間潰しさ」
 そういえば、笑師の能力とかいう「幸能力」とは一体どんな能力なのだろう? 聞きたい事は他にも色々あるけれど……、でも、やっぱりそれも他のことも、まだ聞いちゃいけないんだろう。
「どこに行くのか教えてくれないの?」
「あー……説明しづれぇんだよ。俺も最初は訳わかんなかったし」
「今から行く場所は、鍛練所と呼んでいる」
 長が前を向いたまま、誰に言っているのかわからない言葉を発した。内容からすれば僕に向けられたものなのだろうけれど、彼はそのまま歩を進めていく。
「そこの『管理人』の名前が、先ほど私が唱えたアヤという。綾は三十五の阿呆な男だ、気をつけておけ」
「ひでぇ言い草」
「事実だ」
「まぁな」
 後ろから聞いていたのだろう、柊と花が少しだけ歩調を速めて、開いていた距離を詰めた。僕達の会話を聞きたかったのかもしれないし、特に意味は無いのかもしれない。二人はただ距離を詰めただけで、またお喋りを始めてしまったし。
「花、その服歩きにくくないの? 裾が邪魔だと思うけど」
 少しだけ首を後ろに向けて花に聞けば、首を傾げてにこりと笑って見せた。
「そうかな? んー、慣れちゃったのかなぁ。あんまり気にしたことなかったかも」
 くるりと花は無意味にそこでターンして、少しだけ離れてしまった距離をまた少しだけ駆け足で詰めた。緩くウェーブがかかった茶色の髪がふわふわと揺れて可愛らしい。
 視線を前方に戻そうと首を回して、途中で柊と視線が合った。
 何故か、思い切り露骨にこれでもかというくらいにわかりやすく、ついっと顔を逸らされてしまったけれど。
 え、僕、何かしたかな……。
「柊だって、もっと女の子らしい格好すればいいのにね?」
「……なんで僕に聞くの」
「なぁんとなく」
 確かに、花の隣を歩く柊は中世ヨーロッパの兵士が着ているような少々無骨な軽装備のままだった。鵺と全く同じつくりなので、余計に彼女が着ている事に違和感がある。無理して男モノの革ジャンとか着ている髪の色素が薄い女の子みたいな感じ。
「仕方ないでしょう? 私がこっちに来た時の和服は動き辛いし、ハジメのために用意したセーラー服で歩き回るわけにもいかないもの」
「わざわざ僕のためにセーラー用意したって辺りが凄いよね……」
「あら、気に入らなかった?」
「ううん、すっごく似合ってたと思うけど」
 あんなにぼろぼろに破けてなければもっと可愛かったに違いない。柊のストレートの髪はとても綺麗だけどどこか弾力があって、歩くたびにふわふわと揺れて、時々肩より前側にあったりして。それがセーラー服とぴったり合っていてなかなかに可愛かった。
「……あら、そう」
 薄い反応を返して、柊はまたつんと顔を逸らせてしまった。うーん……僕、何か悪いことでもしたかな……。
 何故か柊の隣で花はくすくすと笑っているし、……心当たりは無いんだけど。
「柊のソレが男物なのは、仕方ないんだ。鼓音が男だったからな」
 ぎゃは、と笑いながら鵺はそれだけ言って、質問しようとする僕たちを拒むかのように長と会話を始めてしまった。
 推測するに、僕の「本来の名前」とやらが風祭であるように、柊の名前は鼓音で、そしてその人が男だった、と。ということは柊の装備はその鼓音という人のものだったことになる。必然的に、僕の服も風祭、という人のものだったということになるわけで。
 そうすると、長がこの服を着せる際に僕を見ながら言っていた言葉の意味が、何となくわかる気がした。
「あれ、でも花の名前はカケル……だったっけ?」
「うん、そう聞いてるよ。 それがどうかしたの?」
「いや……」
 だとしたら、花のその衣装はどうしてドレスなんだろう? 男の人がこんな体のラインが出るような女性物のドレスを着るわけがないだろうし、「カケル」という名前の女性はちょっと想像しにくい。
「あ、もしかして、この服? これね、こっちの世界に来て直ぐに、長がくれたんだ」
「確かに変なこと言ってたわね。『昔のモノは使えないから、これを着ていろ』とかなんとか」
 柊たちと話していれば話しているほど、鵺と長が何かを隠していることが浮き彫りになっていく。
それは僕達の「前の世代」ようなモノ……なのだと思う。そして二人は、僕達の「前の世代」の人たちと、知り合いだったような空気があった。
鵺が一緒に旅をしていたということ? でもじゃあ何で彼は今、僕達と旅をしているんだろう。
「私の時には『男物でも着れない事はないだろう』なんて言ってたのに」
 柊がぽつりと呟いた。不満を漏らしているわけではなく、ただ単に疑問に思っているような声だ。
「そうなんだ?」
「えぇ。まぁ確かに少し大きいかなって気はしたけれど、そんなに気にならなかったわ」
「ってことは、『昔』って、男だらけだったんだね」
 くすくすと笑いながら花が言うので、確かにそうなんだろうなぁと僕も苦笑した。鵺を筆頭に男だらけのパーティなんて嫌だなぁと思いながら。
「あぁ、風祭は女だぜ?」
 鵺がくるりと振り返ってそう言い、すぐにまた、前を向いてしまった。ふと気付けばいつの間にか長と鵺が並んでいて、僕の両サイドに柊と花がいる隊形になっている。
「え?」
「あいつ、男勝りだったからな。背も高かったから、ハジメが着ても違和感ねぇんだよ」
 前を向いたまま、どこか懐かしむように鵺はそう言って、すぐにぎゃははと笑い出した。
 じゃあ僕は女の人が着ていたものを着ているわけか。それはそれでちょっとショック。まぁ確かに、女の人が着ても違和感ないかもしれないけれど。
「お、そろそろ見えてきたぜ。あれだ」
 鵺がぎゃははっと笑って、僕達を振り返って前方を指差した。少し遠く、けれどそこそこ近くにある建物は、丸みを帯びたまるで球場やドームのような形をしていた。大きさは随分と小さいみたいだけど。
「あそこが、えっと……訓練所?」
「いいや、鍛練所だ。間違えるな」
「え、あ、……うん」
 やけにキツイ目つきで振り向かれ、僕は一瞬気おされながら返事をした。
 長の見かけは小さな男の子なのにやはりどこか年長な、重い空気があるからだろう。僕の隣で柊も花も、少しだけ驚いたような顔をしていた。
 ぎゃはは、と鵺が噴出すように笑った。
「ハジメ、間違ったのは仕方ねぇけどよ。でもそれは、仲間相手に苗字を呼ぶってくらい、厳禁なことだぜ」
「……うん、わかった」
 その理由をはっきりと言わないということは、これから説明するとわかりきっていることだからだろう。
「これからしばらくあそこに留まることになる」
 長が言いながら、少しだけ歩調を速めた。後ろを歩く僕達三人もそれについていくように歩調を速める。
 近づけば近づくほど、それは球場だのドームだのといった名前がついているような建物に見えた。ただどこか違うのは、それが体育館よりも小さい中途半端な大きさだということと、やたらと頑強に見えることだ。
「長、鍵寄越せ」
 扉の前に辿り着くと、鵺が痺れを切らしたようにそう言い放った。
「言われなくとも」
「なら直ぐに出せってんだ」
 言葉だけ聞いていれば喧嘩しているようにしか聞こえない長と鵺の遣り取りも、しかし二人は楽しそうに少しだけ笑みを浮かべながら交わす。長が投げた金属の何か、よく見えなかったけれど鍵だろうそれを受け取って、鵺はそれをボールを弄ぶかのように投げては手の中に、投げては手の中に、を数度繰り返す。
 その動きが止まった、と思うと、鵺は鍵を持った右手を振り上げて――
「開ッ!」
 やけに楽しそうに、その鍵を思い切り扉に向けて投げつけた。
「ちょ、え!?」
「ぎゃははっ、見てみろって」
 僕の隣にいた柊も花も混乱しているのか呆然としているのか、ぽかんとした表情で扉を見ていた。長だけは至って冷静なので、きっと間違ったことをしているわけではないんだろうけど、それでも。
「鍵は差し込むものじゃん!」
「だーから見てみろって言ってんだろ」
 依然ぎゃはははと笑い続ける鵺に促されて、僕は柊と花と同じように扉に視線を向ける。
 そこには、信じられない光景があった。
「な、なにこれ……」
 投げた鍵が、扉にめり込んでいるように見える。左に三十度くらい傾いているその鍵からは、扉を全て包むかのように紫色の筋――どこか、血管を思わせる何かが出ていた。ずるずると気味悪くその血管は這いずり回るように広がって行き、少しずつ扉を侵食していく。
 まるでオカルト映画のような、そんな光景だった。
「開け」
 長が一歩進み出て、そう呟いた。途端、紫色の血管がどくりと波打つ。どくどくと、鍵から血液が流れ出ているようなその脈動は少々グロテスクなものがあった。
「我が名は案内屋、長」
 どくん……と、大きく脈動して、その動きは止まった。
 ――一瞬の沈黙。
 そしてすぐに、パリンとガラスが割れるような音がして、中央の鍵がはらはらと崩れ落ちていった。
「扉を開け。伝導師よ」
 ゆっくりと、扉が開く。ギィともキィとも音はせず、のろのろと、まるで焦らしているかのようにゆっくりと扉は開き、そしてその先には三人の男女が待ち構えていたかのように並んで立っていた。
「よ、久しぶり」
 鵺がさも当然と言うように声をかければ、三人は一様に頭を下げ、お久しぶりです、と声を揃えた。
 まるで鵺が偉い人みたいなその対応に驚いているのは僕だけじゃなく、勿論のこと柊と花もだった。
「お待ちしておりました。綾様がお待ちです、どうぞこちらへ」
 三人の男女のうち、並んだ真ん中の男がすっと頭をあげ、僕達を先導するかのように歩き出す。鵺と長は慣れているのだろう、頭を下げたままでいる左右の女性二人の間を通って、彼の後ろをついていく。
 僕は柊と花を振り返り、どうしていいのかわからないままとりあえずは彼らを追った。


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| 笑師 | 18:19 | comments(0) | - |
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