其々の旅路

伯馬(リウハ)のオリジナル小説

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管理人:伯馬もしくはリウハ
サイト名:其々の旅路
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笑師 07-2
07-2
 鍛練所、というのは見た目よりも大きな構造をしているようだった。
地上部と地下部があって、地上部は三階建てだ。中央に螺旋階段があって、一階から三階まで吹き抜け。『日』という字を横にしたようなフロア構成、つまり横棒の真ん中に螺旋階段があって、それを長方形に廊下が取り囲み、螺旋階段から廊下へ二本の通路が伸びているという事。
三階には八つの寝室があって、シングルが四つとダブルが四つらしい。『日』の短い辺にシングルが二つずつ、長い辺にダブルが二つずつらしい。
 二階は綾やその秘書(今は桜さんだけど、ころころ変わるらしい)、それと伝導師と呼ばれる三人と長の私室があるそうだ。入れるわけが無いから眺めて終わり。
 一階は綾、伝導師、長の仕事場と広大な書庫がある。書庫は見ていないけど、一階の半分は書庫なんだって。
 伝導師に会いに行くって言っていたからてっきりその仕事場に入るんだと僕も、そして柊も花も思っていたらしいんだけど、仕事場っていうのは個人的な雑務をこなす為の場所だから他人は基本的に入ってはいけないんだという。
 そういえば綾の仕事場も、やたらと書類があったし、機密書類だ、なんて言ってたし。
 そして僕達は螺旋階段ではなく、カツーン……、カツーン……と音が反響する石で出来た階段を降りていた。ここが地下に繋がっているらしい。入り口の一メートル四方くらいしか天井は開いてなくて、音がよく響く。『日』の底辺辺りから入って、折れることなく階段は真っ直ぐ続いているから、出たときは上辺辺りになっているんだろう。
「ここが、鍛練所の鍛練場だ。ちょっと眩しいけど、そのくらい我慢しろよ」
 鵺が止まったので、後ろに続いていた僕、柊、花も必然的に止まる。そんなに大きな声を出しているわけじゃないはずなのに鵺の声は反響してよく聞こえた。
 石で出来た階段の下段、その目の前にはよく見えないけど木で作られた頑丈そうな扉があった。装飾が綺麗に施されているのは取っ手だけで、扉自体は簡素な平面だ。
 キ、と少し高い音が一度しただけで、扉はすんなりと開く。薄暗さに慣れていたからその光は強烈に感じて、僕は目を細めてしまった。
 鵺が一歩を踏み出したので、僕もそれに続く。中に入ればもう眩しくは無いので、目を開いてその鍛練場を見回した。
「すご……」
「何て広さ……」
「うわぁ……」
 天井の高さは大体二階分くらいだろう。横幅、縦幅は地上よりも大きいような気がする――いや、絶対に大きい。
まず形が綺麗な正方形に思える。僕達はその一辺に手がつく場所にいるんだけど、向こう側が遠い。あんなに遠くなかったはずだ。
「地上の三倍はある。このくらいの広さがないと、修行なんかそう出来ねぇんだよ」
「体育館みたいだね」
「タイイクカン? あぁあの学校とかいう所にある修行場か? あんな場所より頑丈だぜ」
 まぁ、そりゃそうだけど。
 照明はどこと無く橙色を帯びているし、床は木じゃないけど、何か色々テープみたいなのが貼られているし、絶対バスケットゴールとかありそうな感じ。
「遅ぇんだよ、鵺」
「ははっ、わーりぃわりぃ」
「え? あれ……」
 僕達が鍛練場に入ったのを見て近づいてきた三人組のうち、真ん中の男性が鵺にそう声をかけた。
 でも……シュウさん、だよね?
 さっき、かなり堅苦しいくらいの敬語で話していたのに、一体どういうこと……だろう?
「地上だと、伝導師は素性を隠さなきゃならねぇから、ああいう喋りなんだよ。驚いたか?」
「え……あ、はい」
「敬語禁止な。俺じゃなくて、こいつらにも」
 そこで彼は左右の女性を一度だけ見て、そして軽く、本当に軽く頭を下げた。
「俺は、シュウ。春夏秋冬のアキで、シュウだ。年は二十、鵺とは腐れ縁で、可視世界からの仲さ」
「こいつと二人で組んで色々やらかした事もあったな」
 可視世界からの、仲……ってことは、この人も相当な時代を生きてきているってことか。
 少し気になって柊と花を見れば、柊はどうでもいいという表情、花はへぇ、と感心したような表情だった。
 そういえばさっき――っていうか、鍛練場に入ってから二人の口数が凄く少ない。
 柊はあまり他人とすぐ仲良くなれるような人じゃないってことはわかるけど……花は友好的な気がしたんだけどな。
「ありゃテメェが悪ぃんだよ」
「ンだと? 楽しんで計画立てたのはどこの誰だ」
「俺だな」
「わかってんじゃねぇか」
「実行犯が一番の罪だけどな」
「うるせぇ」
「よく捕まらなかったモンだ」
「逃走ルートも完璧だったからな。俺考案だけど」
「いい加減にしてくれます?」
 二人の喧嘩のような遣り取りが、一瞬にして凍った。
 ……えっと、たぶんこっちの女性、三人の中で一番小さい、秋の右手にいた人。
「アキ」
「違うって言ってんだろ」
「私より強くなったらシュウって呼ぶわ」
「……はいはい」
「私は、ムラサキ。色の紫です」
 彼女はくるりと僕らに向いて、簡潔にただそう述べた。
 柊とはどこか違った凛とした空気を持った女性だった。柊が「クールビューティ」だとしたら、この女性は「絶対零度」って感じだと思う。
真っ黒の長い髪は、綺麗に艶めいていた。前髪が真横に切られているのに、ちっとも変じゃない、寧ろ似合っているくらいだ。冷めた瞳、淡々とした口調と、整った顔立ちが一層「絶対零度」を引き立たせている。
「アキ、説明をして」
「はいはい、姉御」
「ぶっ殺すよ」
「やってみれば?」
「…………いいのね?」
「はいはいはいはい、やるって」
 秋は苦笑しながら両手を挙げると、子供をあやすかのように柊の頭をぽんぽんと撫でた。
 払いのけたり怒ったりするよそれ、なんて思ってたんだけど、紫はそれに別段反応はせず、ただ一歩下がっただけだった。
「その前に、スズメ、お前も」
「あ、はぁい」
 もう一人の女性、丁度秋と紫の中間くらいの背丈の彼女はにこっと笑った。花より少しは高いのかな。
 ショートカットで、耳がほんの少し見える。ほんわかとした印象なのにどこかボーイッシュなそれは不似合いに思えるけど、何となく幼い感じがして可愛らしい。
「空を飛ぶ、あの雀です。これでも一応紫ちゃんより一つ上なんだよ」
「お前それ毎回言うのな」
「だって言わないと誰もわかってくれないから」
 秋の呆れた声に雀は苦笑する。一つ上ってことは……十七くらい? 僕と紫は同じくらいだと思うけど、秋はどう見ても紫の方が年上に見える。
「ハジメ君、幾つに見える?」
「え?」
 ずいっと雀は僕に顔を近づけて、にこっと笑った。柊の時ほどじゃないけど、でも近い。かなり困る。
「十七……とか」
「あはは、お世辞いらないよー」
「え、でも」
「私、秋と同じでハタチ」
「嘘! あなたも同じ年なの?」
 雀の年齢にいち早く反応したのは、花だ。そういえば花も二十歳だった。花の声に雀はぱっと僕から離れる。
 あーもー……心臓に悪い。
 何となく、本当に何となくだけど柊を見ると、ものすごい怖い顔で睨まれた。
 ……あーもー……。
「雀」
「あうっ……紫ちゃぁん……」
「無駄話はそこまでです、後からでもお話は出来るでしょう。アキ、早く」
「はいはい」
 紫はどうやらこの中で一番の実力を持っているみたいだ。……いや、持っていなくてもあの迫力で言われたらどうしようもないか。
「とりあえず細かい説明は面倒だから、分れちまおう。花、貴女は俺とだ」
「え、あ、はい」
「柊さんは、私と一緒ね」
「わかったわ」
「俺も行くぜ、ついでだしな」
「ハジメさん、貴方は私とになります」
「うん、わかった」
 秋と花は鍛練場の左奥へ、柊と鵺と雀は鍛練場の右中央へ、そして僕と紫は、左後方……つまり今いる場所だ。
 けど、これってどういう基準?
 それと……修行って、何するわけ?
「色々思うことはあるかもしれませんが、ひとまず説明をします」
「あ、うん」
 やっと仕事が出来る、みたいな感じで紫はふと息をついた。
さら、とその髪を掻き揚げる。その動作がとても似合っていて僕はつい彼女を凝視してしまい、何か? という目を向けられてしまった。誤魔化すわけにもいかないので適当に質問をしてみる。
「……その敬語って、普段から?」
「そうです。堅苦しくて嫌でしょうが、」
「そういうわけじゃないんだけど」
 直ぐに答えが出てきたってことは、この質問には慣れているみたいだ。けど、僕が聞きたいし言いたいことはそういうことじゃなくて。
「ほら、秋だけには普通に話してたたから」
「……まぁ、そうですね」
 あれ、今、ちょっと表情が変わった。
 どこか……うん、嬉しそうな、恥ずかしそうな……、そうか、もしかすると。
「特別なんだ」
「そっ……、……そういうわけでは、ありません」
「まぁいいや。説明してよ」
「……わかりました」
 それならさっき、頭を撫でられて何の反応もしなかったことも納得が行く。
 意外といえば意外だけど、驚くほどのことじゃない。秋は大雑把だけど絶対に良い人だし、紫は凄く綺麗だ。惹かれあったって別に不自然なことじゃないだろう。
「私は伝導師。正確には、三人揃っての伝導師です。私が貴方に伝えることは、空使としての力。すなわち、空間回帰能力です」
「教えるってことは、紫も使えるんだね」
「はい。私も元々は空使でしたが、ある時を境にこちらの仕事に就きました」
 ということは、秋が笑姫で雀が笑師、ってことになるんだろう。
 これは正直、かなりありがたい。僕は今、ほとんど空間回帰能力を扱えていない。寧ろこれって扱うものなのかどうかすら疑っていたくらいだ。
 だって、どれだけ思っても実現しないのに、思わないときにふっと出来たりとか、力がまばらだったから。
「本日は修行は行ないませんが、明日から私の全てを貴方に叩き込みますのでそのつもりで」
「ありがとう」
「いえ、仕事ですから」
「でも教えてもらうんだから、感謝はしなきゃ」
「……真面目な人なんですね」
「ありがとう」
「褒めてません」
「え」
「嘘です」
 ……調子狂うなぁ。どうして僕の周りにはこう、思い通りに動くっていうか、わかりやすい人っていないんだろ。
 みんなどこか捻くれてて、それでいてわかりやすいのに、何だかつかみどころが無い。そんな人たちばっかりだ。
 ま、面白いからいいんだけど。
「教え甲斐がありそうです」
「そう?」
「えぇ。能力を操れていないのでしょう?」
「まぁね」
「それは、能力をあり余しているからです。まぁ、風祭さんですから当然でしょうけど」
 そこで、僕は一つ思い出したことがあった。
 そう、その「風祭」に関する全ての問題だ。
 その後紫から色々、注意事項やこれからの大まかな予定などを聞いていたけれど、しっかり頭に入れながらも僕は違うことを考えていた。
 綾は明日、敵対勢力についてのことを話すといっていた。
 じゃあそれは、僕が今知りたいと思っている事を話してくれないということだ。
 風祭、鼓音、翔。彼ら三人は、一体どういう人物で、どういった存在で、鵺や長と、そしてこの伝導師たちどう関わっていたのか。
 そう、全て、鵺に関わることだ。


≫08-1
| 笑師 | 18:20 | comments(0) | - |
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