其々の旅路

伯馬(リウハ)のオリジナル小説

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管理人:伯馬もしくはリウハ
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笑師 08-1
08-1

 三階の部屋は適当に使っていいからな、と秋に言われて、僕達は眠たい目を擦りながら三階に上がった。
 個別の説明が最初に終わったのは、僕だった。紫は必要最低限を簡潔に教えてくれたのかなと思ったけど、ただ単に僕に説明することが少ないからだったみたいだ。
 花が秋から聞いた話は、花にも特殊な能力があり、それはとても危険なモノで、ある程度慣れなければ操るどころか作動すら困難であって、突如として発動する可能性がかなり高いから、明日一日でかなりの量を叩き込まれる、ということだったらしい。
 柊が雀から聞いた話は、事実改変の能力をさらに発展させた、トレースという、鵺が「装填」と呼んでいる能力のことと、戦闘に関することだった。どうやらパーティで戦闘要員というのは本当に笑師だけで、笑師はトレース能力を使って上手く戦闘をすることが出来るらしい。
 二人とも、それに当たっての心構えなどなど、色々説明されたようでかなり疲労していた。今日一日で色々なことを頭に叩き込まれたから、ついていっていないのかもしれない。
 そういえばと思って、ケータイを取り出してみる。電池表示が三個のままのそれは、深夜二時を示していた。
「私もうだめぇ……眠い……」
「ちょっと花、しっかりして。私だって眠いんだから、ほら、さっさと歩く」
「ふぇ〜……」
 どうやら花は夜に弱いらしく、まるで幼い子供のようにふにゃふにゃ言いながら柊と共に、ダブルの部屋に入って言った。その直ぐ隣のシングルが僕の、さらに隣が鵺の部屋だ。
「鵺、」
「ん? 何だ?」
「話があるんだ」
「……だと思った」
 鵺は何となく予想していたのか、口の端を上げて笑うと、こっちの部屋で話そうと僕を彼の部屋に招いた。本当は柊と花も一緒に話したいところだけど、あんなに眠そうな二人を見たら明日話してあげようと思って、とりあえずは僕だけだ。
 僕は、気になって眠れない。
 鵺はずっと、長と一緒に僕らに何かを隠していた。いつか必ず全てを話すと言いながら、その話題だけは上手く避けられていたように思う。
「で?」
 ベッドに腰掛けた鵺の傍にある椅子に座って、僕は真っ直ぐ鵺を見た。
 いつもの、どこかふざけた様な鵺じゃない。
 わかってるんだろう、僕が何を聞こうとしているのか。
「色々聞きたいことはあるんだけど、上手く纏まらないんだ。出来れば全部話してほしいけど、どうもそうはいかないみたいだから……、」
「いいぜ」
 言って鵺は、小さく装填、と呟いた。シュン、と音がして、鵺の服装が武装ではなく、楽なモノに変わる。
 あ、いいな、それ。羨ましいかも。着替える手間が無いじゃん。
「って、……え? いいの?」
「あぁ。元々お前には話さなきゃならなかった事だからな」
「……僕、には」
「そう。……柊と花には、黙っていてほしい」
 僕はすぐに、うんと頷けなかった。
 あの二人は、鵺や長、周りの人全てを信じている。話してくれることが全てで、話してくれないことは知ろうなんて思いすらしない。
 だからこそ、僕はちゃんと知って、二人に伝えなきゃならないんだと思っていた。
鵺のことも、他のことも。
 あの二人は、この世界にいるからと言っても、女の子だ。僕がいた時代なら、ケータイを弄ってお化粧しておしゃれして、楽しい、それこそあの二人の容姿なら花のような人生を送っているはずだ。
 そんな二人に、なるべく辛い思いなんかさせたくない。知っておくべきことはちゃんと知っておいて欲しい。
 それが僕の気持ちだったから。
「あの二人には、酷な話だからな」
「……どういうこと?」
「全部話す。わからなかったら質問しろ。俺は説明が下手だから、何度でも質問されてやる。朝方までかかるかもしれない。……いいか?」
 僕は勿論頷いた。

  *

 時を遡ること、二百年ほど前。鵺が笑師となり、仲間達と共に旅をしていたその時代。
 日本は明治になる直前の、世界は国が出来、崩れ、また出来、という混乱の一八〇〇年代。
 世界が落ち着く前のこの時代辺りは、パーティが出来ては旅に出、旅に出ては再構築をし、またパーティを作り始めるという、忙しない時代。
「だから言ってんだろ! 俺は認めねぇ!」
 鵺は笑師として、同じ笑師である鼓音と、空使である風祭と共に、笑姫である翔を護りながら世界を旅していた。
 抵抗勢力の者たちは倒して、あとは時期が来るまで待つだけ。荒れた場所から混沌が生まれる瞬間を翔が読み、皆で駆けつけて再構築をするだけという、そんな時期だ。
「鵺! お前が認めようと認めまいと、事実も仕組みも変わらないんだよ! アタシたち空使と! お前と鼓音の笑師は! 笑姫と共に再構築を行なうしかないんだ!」
「嫌だ!」
「嫌だじゃない! それしか方法がないと言っているだろう!」
「うるせぇ風祭! テメェはいつもいつもいつも、それしかないそれしかないって! 探してねぇくせに!」
 鵺と風祭は、対立していた。
 それは、旅が始まった頃から変わっていないといえば、変わっていない。
 この頃の鵺は、どこか子供染みた考え方をする二十五歳だった。秋と共に、いつでもどこでもやんちゃをやり続け、そろそろ家をきちんと継いで、嫁を貰わなきゃなと言っている最中に、不可視世界へと導かれたからだ。
 これで、俺は俺のしたい事を出来る! その一心だった。
 一方風祭は、鼓音に続いて仲間になった、二番手だ。この世界の内情をその時からしっかりと把握していたし、彼女は人一倍正義感が強かった。
 だから、鵺が許せなかったのだ。
 二人はよく、対立していた。鵺は自分の「子供みたいな正義感」を貫き、風祭はそれに苛立つ。おっとりした性格の翔は二人を止めるどころか見守っているし、鼓音は元から口を出すつもりすらない。
「何でもいいけどさぁ、そろそろ行こうぜ。つーか俺は行くからな、守ってくれよー、風祭」
「ちょ、翔! 守るのはアタシじゃなくて鵺だ!」
「えー、だってお前の方が強いじゃん。なー、鼓音」
「そう思うけど……僕に守られるっていう選択肢はないのかな」
「言わなくても守ってくれるし」
 すたすたと翔が行ってしまうのを、鼓音がしょうがないな、と苦笑して追いかけた。待て、と風祭は叫ぶものの、二人は止まる気配は無い。
仕方無しに風祭は二人を追うが、ふと後ろを振り向くと、鵺はそこに留まったままだった。
「鵺! さっさと来い!」
「ウルセェ! いかねぇよ、勝手に行けばいいだろ!」
「…………鵺……」
 鵺には、どうしても納得出来ない事があった。許せなくて許せなくて、切なくて苦しいことだった。
 鵺は、旅の初めの頃はその事実を知らなくて、ただ自分のしたい事をしたいから風祭に反発していた。しかし今、再構築をする時が近づくにつれて、鵺が風祭に反発する理由は違うものになっていた。
 仕組みが、気に食わないのだ。
「……っか、翔、鼓音……、」
「あーあ、しょうがないなぁ。風祭は結局鵺に甘いんだよねぇ」
「わかっていたことだ」
「すまない……」
 このパーティはいつも、笑姫である翔よりも笑師である鵺の行動が全体を支配してしまっていた。鵺にその気は無くとも、一人だけ外れた行動をさせるわけには行かず、結果として他三人が鵺に合わせることになってしまう。
鵺はそれに対して、申し訳ないとは思いつつも、自分が思っていることは間違っていないと臍を曲げた態度を取っていた。
「鵺、ここで野営する」
「……鼓音」
「風祭、翔と一緒に薪を集めてきてくれ」
 鵺に真っ直ぐ近づいていった鼓音は振り返って風祭にそう呼びかける。三人の中で最も鵺を気にかけているはずの風祭は鵺にちっとも近づけていないからこその配慮だった。
 翔に促され、渋々といった様子で風祭は薪を探しに森へ入っていく。時刻は夕刻六時、場所は日本、季節は秋。そろそろ肌寒く感じた。
「鵺、」
「……ンだよ」
「君の気持ちは、わからなくもない」
「…………」
 ハジメにとっての鵺が、この時の鵺にとっての鼓音であった。パーティを導いていく、この世界の仕組みを四人の中で最も理解している彼。
 だからこそ鵺は、鼓音にも憤りを感じていた。
「僕だって、君と同じように世界を、その仕組みを変えたいと願ったことはある」
「なら何で探さなかった!」
「見つからないからだ。見つかる前に、再構築の時が訪れた。……お前なら、再構築を放り出すか?」
「…………それは……」
 世界を、再構築するということ。
 それは、多大な犠牲を伴う。
「風祭に言いたい事があるなら今のうちだ」
「……ねぇよ」
「再構築は近づいている。僕にはわかる。その感覚を知っている。言うなら今のうちだ。僕のように、後悔するな」
 鵺の記憶では、鼓音はいつも何かを悟ったような見透かしたような話し方をする人物だった。
 鵺の記憶では、翔はいつもどこか抜けているように見えてしっかりした人物だった。
 鵺の記憶では、風祭はいつも。
「……ああ」
「僕達に出来ることをする。それが、最善だと思わないか」
「…………ああ」
「風祭のためにもね」
「うるせ」
 風祭はいつも、輝いていた。


  *
≫08-2
| 笑師 | 18:05 | comments(0) | - |
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