其々の旅路

伯馬(リウハ)のオリジナル小説

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管理人:伯馬もしくはリウハ
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笑師 08-2
08-2

「再構築の仕組み自体は、覚えてるよな」
「うん、綾に説明して貰った事でいいんだよね?」
「そうだ」
 部屋に備え付けられている時計の針の音が、今更になって僕の耳に届いた。かち、かち、かち、時折こち、と違った音を立てている。今まで聞こえていなかったのは、それだけ鵺の話に耳を傾けていたからだろう。
「その再構築は、犠牲を伴う」
「再構築、なのに?」
 再構築は、犠牲があったという事実を根こそぎ変えてしまうものなのではないのだろうか?
「再構築終了後、……パーティのうち三人はその場で転生をする」
「……それって……」
「簡単に言えば、死ぬってことだな」
 カチン、と時計の音が強く響いた気がした。あくまで気がしただけだけど、僕はぎゅっと拳を握ってしまう。
 とくん、とくん、と鼓動が高鳴っていた。胸が締め付けられるような苦しみに襲われる。
「どうして……」
「力を失うから、だそうだ。俺たち再構築メンバーは、再構築をするためにここにいる。再構築時に、力を最大限に使うから、らしい」
 鵺の言葉がどうも歯切れ悪いのは、きっと彼が今でもその仕組みに納得が行っていないからだろう。
「残りの一人が……鵺、ってこと?」
「そう。残った一人は『受け継ぐ者』になる」
 そういえば確かに長がそんな事を言っていたような気がする。
 一体、どうして。
「どうしてそんな……」
「……俺も最初、そう思った。どうして俺だけが、ってな」
 まるで自嘲するように鵺は笑い、そしてすぐにふっと表情を失う。
 鵺の昔の話をしている時も、そんな顔をしていた。何も考えていないように見える、だけど本当は考えていることを知られたくなくて作る無表情だった。
「意味は、ある」
「……どんな?」
「お前たちを、こうやって正しく導くためだ」
「僕たちを……」
「お前たちは、あいつらの魂を受け継いでいる」
 鵺が言うには、再構築が終了した瞬間、『受け継ぐ者』以外の魂は転生をするのだという。
 そしてその魂が生まれる瞬間を待ち、生まれればその魂が不可視世界へ来る準備が整うまでの間、何らかの事故や事件で死なないように守るのが、『受け継ぐ者』の役割なのだそうだ。
 転生した魂を追い求めるのには、理由がある。転生を果たした魂は、不可視世界の住人となる力を必ず持っているからだそうだ。新しく候補を探すよりも、適確で迅速に事が進むから、転生した魂は必要なのだという。
「必要不可欠な存在なんだよ。受け継ぐ者は、な」
「……でも、そんなの……」
 そんなの、悲しすぎる。
 僕だって、もしも目の前で鵺と花と、柊が……死んでしまうのであれば、鵺のように必死になって止めただろう。
 悲しすぎる。
 残るのは自分だけだ。
 僕に『風祭』だった頃の記憶が無いように、新しく生まれてきた柊は柊ではないのだろう。性格も違うのだろう。
「……俺も、抵抗はした。出来るだけ、やれるだけの事はしたつもりなんだ。だけど、……他に方法は見つからなかった。俺だけじゃない、受け継ぐ者となった奴らはきっと、同じように探したはずだ」
 それはきっと、そうなのだろう。
 仲間が死んでしまうのを、黙って見届ける事が出来る人なんて……そうそういないと思う。
 仲間、なんて意識は元々僕には無かったモノだけれど、柊に導かれてこの世界にやってきて、極々短い間なのに、僕にとってその『仲間』は無くてはならない存在になっていた。
 ちょっとオカルトチックに言えば、魂が引かれあうから、なのかもしれない。前世で、一緒に旅をしていたのだから。
「でも、見つからなかった。仕方が無いんだ、そういう仕組みだから」
「……そう、なんだ」
 そういう、仕組み。
 この世界を創ったというのは……柊の話だと、確か『創師』という人たち。鵺に確認してみると、それは本当のことなのだそうだ。どこからどこまでが嘘で本当なのかわからないので、僕は覚えている限りの事を聞いてみる。
「笑姫が空使を選ぶっていうのは?」
「それは嘘だ。今回はたまたま花があの人いいねぇ、なんて言っていた相手がお前で、それに俺が最もらしい説明を付け加えた」
「コウノウリョクって、無いんだね?」
「あぁ、無い」
「それじゃあ魔力って何?」
「能力全般を使う際に、どうしても生じる圧力だ。原因とかはわかってねぇけど、能力を使うっていうことは魔力を使うのと同じだな」
「魔方陣とかは?」
「あれは案内屋の能力だ。案内屋の能力はやたら西洋の黒魔術みたいなんだよ」
「最初にここに来た時、何だか不吉な歌が聞こえたんだけど?」
「あー……そりゃたぶん、創師の子供だろう。創師の子供は有りもしない噂を流す事で有名だからな」
「どうしてそんな事するの?」
「知らん。創師たちの暇つぶしらしいけど」
 他にも色々疑問に思った事を聞いてみたんだけれど、答えは全てわからない、だった。この世界の仕組みがどうなっているのかを完全に把握しているのは創師だけで、鵺は勿論、長や綾にもわからないらしい。
「なぁ、ハジメ」
「うん?」
「お前、聞かないってことは、わかってるんだろ?」
 会話が途切れて少しした時に、鵺はそう呟くように言って僕を見た。
 何が、とは聞かない。
「うん。僕が、次の受け継ぐ者なんだよね」
「あぁ、そうだ。……俺が言うのも何だが、覚悟はあるのか?」
 覚悟。それは、綾さんにも言われた事だ。
 僕はただの平凡な男子高校生で、若干こういった異世界とかを夢見たこともあるけれど、確かに本当にこんな世界の住人になるなんて、思っても居なかった。
 だけど僕は、柊が花が鵺が長が綾が好きで、一緒に居たら楽しいんだろうな、と思ったんだ。
 僕は今まで、人と深く関わる人間じゃなかった。クラスメイトはいるけれど友達はほとんど居ないに等しかった。
 その僕が、この人たちと一緒にいたい、と感じているというそれに、僕自身が驚いている。
 それこそ「魂が引き合う」のかもしれないけれど、彼らと一緒に居る事は楽しかった。この世界の仕組みも面白いと思っていた。
 だけれど、楽しくて面白いだけでは駄目なんだと、基の事を知って感じたんだ。
「あるよ」
「……辛いぞ」
「わかってる。でも、それ以外に方法が無いのなら、するしか無い」
「……お前は強いんだか、諦めが早いんだか」
「後者じゃない?」
「そうだな」
 二人、喉で笑いながら言い合う。
 確かに辛い事だと思う。おそらく鵺は僕たちと一緒に居ながら、昔の旅を思い出しているんだろう。自分が取った言動を思い出して嫌悪しながらも、僕らを導いてくれているんだろう。
 運命、使命、確かにその言葉で片付けられる。だけど僕は、それだけじゃないと思うんだ。
 僕らがここに居るのは、必然でもなんでもない。ただの、偶然。幾つもの偶然が折り重なった、最大の偶然。
 風祭さんの魂が僕となったのも、偶然。他の人たちも同じ。そしてその偶然の結果生じた今の事態に、従わなければならない。
 元々決まっていたなんて思いたくない。もしも僕が風祭さんの魂を持っていなかったのなら、今もきっと平凡な男子高校生だったのだろうと思いたい。
「一つ、聞いていいかな」
「ああ」
「どうして、僕が受け継ぐ者なの?」
 僕が受け継ぐ者で、柊や花ではない理由。おそらくそれは、規定事項として決まっている物のはずだ。
 鵺が選べる、という訳でもないだろう。
「受け継ぐ者になるには、条件がある」
「条件?」
「そう。一つ、笑姫でない事。一つ、初めての旅である事。一つ、男である事」
 そうか、つまり消去法で、今のパーティでは僕だけだという事になる。
 けれど、どうして男性なのだろう?
 そう質問する前に、鵺は続けた。
「何でこの条件なのかはわからない。ただ、パーティの構成条件に、笑姫以外の三人のうち一人は女であること、という規則がある。たぶん旅の始まりで、受け継ぐ者が次の受け継ぐ者を直ぐに判断できるようにするためだろうな」
 言って、鵺は欠伸を噛み殺した。それに誘発されて、僕も小さく欠伸をする。もう一度携帯電話を取り出して時刻を見ると、もう四時だ。
「何かわからない事があったら、いつでも聞きに来い。俺は、お前に何もかも説明する義務がある」
「うん、わかった」
 この世界には、色々な規則や法則があるらしい。それを全て把握しているのは、訓練所の管理人、案内屋、そして受け継ぐ者だけ。
 受け継ぐ者は次の受け継ぐ者へと、知識を全て伝えなければならない。それでも伝わりきらない事は、旅が全て終わった後に、管理人と案内屋から聞くのだそうだ。
 この話は柊と花には告げないと約束して、鵺におやすみを言って部屋を出た。僕だって、二人に過酷な事実を告げたくない。
 あの二人には、いつだって笑顔で居てほしい。最終的にはわかってしまう事だけれど、それでもぎりぎりまで、僕と鵺をからかって、楽しそうに笑っていたほしい。
「何時に起きればいいんだろう……?」
 僕の部屋に入って寝る支度を全て終えると、もう五時だ。そう大きくない窓の外は仄明るい。
 とりあえず、と思ってケータイのアラームを八時にセットし、僕は眠りに就いた。

| 笑師 | 18:05 | comments(0) | - |
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