其々の旅路

伯馬(リウハ)のオリジナル小説

リンクについて
こんなサイトでもリンクして頂けるかはわかりませんが、一応礼儀として。

管理人:伯馬もしくはリウハ
サイト名:其々の旅路
アドレス:http://riu89ma.jugem.jp/
バナー1:200x40
バナー2:88x31

報告いただけるとすっ飛んでいきます。
スポンサーサイト

一定期間更新がないため広告を表示しています

| - | | - | - |
ノーネーム 00
00(序章)
  00

 荒れ果てた村だった。色彩が無く、どこを見てもモノクロで、時折セピアが混ざる程度。風が吹くと必ずからからと何かが転がるような音がする。
 こんなにも荒れているのか、と茶髪の少年は顔を顰めた。この村には数度訪れたことがある彼は、ここ最近の荒れ具合が急速に進行している事が残念で堪らないようだ。
 少し長い髪をかき上げ、腰に差した剣にこれ見よがしに触れる。それだけで周囲に自分が戦闘技術を持った者であると知らしめる事が出来るのを彼は知っていた。
 風が吹く。向かい風だ。咄嗟に顔の前を右手で覆い、呼吸を止める。乾燥しているこの地域の風には不純物が多く含まれており、ただ呼吸しているだけで苦しいのだ。況して向かい風であれば尚更である。
 風が収まった。右手を下ろし、呼吸をする。つん、と喉の奥に異物感があった。長居は出来ないか、とまた顔を顰めた。
 その表情は体格に随分と似つかわしくない。纏っている雰囲気もその他何もかもが、身体年齢よりも五つほど上に思われた。
 目に異物感を感じたが擦った所で視界が歪むだけだなと判断した少年は数度瞬きをするだけで歩を進め始めた。
 基本的に街も町も村も、外と隔絶するために周囲を塀で覆うのが常だが、この村はその塀が崩壊している。塀の外はここよりももっと荒れている上に、彼はその外を何日も歩いていたのだから肉体的には苦痛らしい苦痛を感じているわけではないのだが、村の中に入っているのにこの状況は酷い、とそこに苦痛を感じていた。
 人の気配はする。同時に、とてつもない殺気も感じる。村だけでなく人の心が荒んでいるのだ。
 この村は世界で最も治安が悪い村だと有名だったが、ここまで酷くは無かった。何度か足を運んでいるからわかる。それなのにこんなにも変わってしまったのは、おそらく、そういう事なのだろう。
「――なぁ」
 前方から呼びかけられる。空気中に漂っている不純物で視界がはっきりとしているわけでは無かったが、そのセピア色の空気の中でゆら、と人影らしい何かが動いたのだけはわかった。
 つい先ほどまでは見えなかった。おそらく少年が歩を進めるのと同じように、相手も向こう側から歩を進めていたのだろう。
「ここさ――俺の、場所だからさ」
 ゆら、ゆら、ゆら、と影が揺れる。残像か、幻影か、はっきりとしない。声がするのに、影も見えるのに、気配だけは微塵も感じないのだ。変わりに、とてつもない殺気が全方向、三六〇度から降り注ぐ。殺気の種類は全て同一だ、おそらくたった一人なのだろう。
「やめて――くれるか。ここさ――俺の、場所だからさ」
 幼い声だ。茶髪の少年の身体年齢は十になるかならないかくらいに思えるが、それよりも二つ以上は幼いように思われる。舌足らずな口調と乏しい語彙力もそれを思わせた。
 茶髪の少年はしかし、にやりと、笑うのだった。
「お前……ここの生まれか」
「ここは――ここは、俺の場所だって言ってんだろ」
「そうか。名は」
「ナ?」
「名前は」
「教える筋合いは無い」
 殺気が一瞬にして引いた。しまったな、と茶髪の少年は顔を顰める。おそらく相手の琴線に触れたのだ。
 その証拠に、散りばめられていた殺気が一点に集中されていた。茶髪の少年の、真正面。やはり最初からそこに居たのだ。
 この村が荒れた原因はこいつで確定だな、と彼は口の片端を上げた。おそらく通常状態が、先ほどの、殺気を全方向に散りばめている状態なのだろう。治安が悪いとは言っても基本的には常人しか居ない村であのような殺気を振りまいていたら、色々と悪い事が起きるに決まっている。
「余裕ぶっかましてんじゃねぇ」
「お前如きに負けるつもりは無い」
「はん……」
 鼻で嘲笑われた事が可笑しくて、茶髪の少年はまた笑う。笑いながら、笑顔のまま、腰の剣をすらりと抜いた。
 いや、剣では無い。長さは短いが、刀だ。銃や剣が裏といえど案外簡単に流通し、手に入るだろうに、好き好んで刀を持っている。という事は、腕が立つという事を意味する。刀は扱いにくい上に殺傷能力に劣る。本気で誰かを殺したいと思っているのであれば持つはずが無い武器である。
 その装飾等の綺麗さなどによって、飾りとしての扱いも多い。腰に刀を差していながら、それを抜きもせず銃で戦闘する者は多く居るのだ。
「弟を探している」
「オトウト」
「そうだ。容姿も名前も知らないのだがな、会えばわかる」
「ンなモン俺が知るか」
「道理だ」
 殺気が、向かってくる。ゆっくりと、ゆっくりと、それで居て隙が無い。茶髪の少年は刀を両手から右手に握り直すと、左手で反対から、同じ形状の刀を抜いた。刀で二刀流。おそらくそれだけで、大概の者は逃げ出すだろう。
「カタナ、好きか?」
「あぁ、好きだな。殺さずに済む」
「俺も好き。殺しやすい」
 キィン、とぶつかったのは、刀では無い。二人の少年の、とてつもない殺気だった。
 茶髪の少年より一回り以上体格の小さな、漆黒の長髪を持った少年が持っていたのは、血のこびり付いた長刀だった。


≫01-01
| ノーネーム | 23:47 | comments(0) | - |
スポンサーサイト
| - | 23:47 | - | - |