其々の旅路

伯馬(リウハ)のオリジナル小説

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管理人:伯馬もしくはリウハ
サイト名:其々の旅路
アドレス:http://riu89ma.jugem.jp/
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ノーネーム 01-01
01-01
  1

 季節は、春。温かで柔らかな、どこか愛しい風が吹く、そんな季節の中、ブルーロアーナ王国の城下町は、活気に満ち溢れていた。ざわざわと落ち着かない空気、三本のメインストリートにある様々な店の店員たちはここぞとばかりに声を張り上げて客を呼び込んでいた。
「今日は出血大サービスだ! 全品半額だよ!」
「ベーシック装備がたった三割の値で買えちゃうよ! その他の装飾品も七割以下で大放出! さぁ見てって見てって!」
「じゃあ何、見つけたってことか? だってまだパレードまだだろ? 動くには早いんじゃねぇの」
「野菜果物、その他副菜にもってこいの食材、全品半額! ライナルの村直送だから鮮度はどこにだって負けないよ!」
「何の何の! こっちはウェイブの村から今さっき届いた生きたままの魚介類! こんな鮮度のいい魚が食べれるのは今日っきりだ!」
「はぁ? 泳がせれば良いじゃねぇか。……あのなぁ、考えてみろ、キー……じゃねぇ、リキースク、サマ、の生誕祭だぜ?」
「よぉクウ! 今日は寄ってくれねぇのか?」
「わりぃ、俺、仕事入ってんだよね」
「そうかいそりゃ残念だ。リュウにどうかなと思ったんだけどなぁ」
「凱旋が終わってからでもいいなら来るかもよ」
「お、そうかい。なら伝えといてくれや」
「あぁ、わかった」
「本日、入会金無料! 契約期間を三年以上にすれば、最初の一年はタダも同然の年会費! さぁ明日から学ぶために今日のうちに入会を!」
「本日限り! 本日限り、宝飾品が全品七割提供! ウェスタドットから届いた最高級品ばかり!」
 ざわざわとこの街が落ち着かないのは、この国の王子である、リキースクの生誕の日だからである。今日で二十二になった彼は街の人々に人気がある、非常にさばさばとした、騎士のような男だった。
 騎士とはつまり国家騎士団だ。国民の十〜二十五歳までから集い、もしくはスカウトをされた全十八隊二千人前後で結成されている。この場合注意すべきは、兵士と呼んでしまうと敵国であるレッドシーガ王国の兵士団を示してしまうという事だろう。
リキースクは騎士のようなというか、ほぼ騎士同然である。彼は騎士団の第一隊に所属していた事もあり、現在ですら時折騎士に混ざって城下町に下りては点在している道場や鍛錬場で手合わせをしたりする事もしばしばあるのだ。
 リキースクは腕が立つ。彼を警護する者たちはほぼ全て彼より実力が劣っているというのは事実だ。それでいて子供好きで世話好きなのは、兄弟が多いからだろうか。街の人たち全員に人懐こい笑顔を見せ、時には井戸端会議に混ざっていた事もあったそうだ。
 だからなのだろう、街の人々は彼に絶大な信頼を寄せている。将来国を背負う彼が信頼されているというのは国が安定している証拠でもあった。
「凱旋の最中を狙うに決まってんだろ。相手はレッドシーガだ、国の混乱を狙っているのはわかり切ってる」
 その活気あふれる街を、何やら独り言のような、しかし確実に会話しているであろう言葉を呟きながら歩いている青年、先ほど「クウ」と呼びかけられていた彼は、そこまで言ってふと辺りを見回し、建物の間に入って行く。
 それもそうだろう、この会話、端々を拾うだけでもかなり危険な物だということは想像がつく。ただし街の喧騒は彼の声をほとんど消してしまっているので聞き取られる心配は無い。しかしこれから先はさらに過激な内容になると判断したからの行動だった。
 建物の間に入り、入ってきた場所と、直線の先、出口を見て、人がこちら向いていないのを確認してから、彼は、クウは地面を蹴った。
 おそらく四人分くらいはあるだろう高さの建物の一番上まで軽々と飛び上がった彼はそのままその屋根の上に座る。街でそう多くない高さの建物だが、街の人々は活気あふれる店に視線を向けているので気づかれて怪しまれる事も無いだろう。
「どこにいるんだ? 城の南……七十七の、西八十? あぁ、あれか……あんな目立つ場所に居て平気なのかよ……無用心にもほどがある。ていうか囮なんじゃねぇの? もっと色々探して見ろよ、アイツは泳がせておけ」
 ざざ、ざざざ、という、ノイズのような音が彼の右耳元から微かに漏れ聞こえた。その音が嫌いなのか、彼は顔をしかめて、耳に取り付けられている宝飾のような物を外した。
 内側、耳にぴたりと取り付けられていた方の一部を何やら弄って、また耳に取り付ける。今度はその状態のまま、中央にある青い丸い宝石を数度押す。かち、かち、と音がした。
「ススム、どこ?」
「お前の真後ろだな」
「うわっ」
 呼びかけに応じた男は正に彼の真後ろに居た。上から降ってきた声に驚いたのだろう、クウは大声を上げて咄嗟に受身の態勢を取っていた。
 クウよりも背の高い彼がふと笑う。茶色い短い髪と相俟って、どこか意地の悪そうな印象を与えた。
「んだよ……声かけてくれりゃあいいのに」
「かけただろう、今」
「俺が呼びかける前にだよ」
「そうか、悪かった」
「全然悪いと思ってねぇだろお前……」
 苦笑するようにクウは笑い、すっと立ち上がる。身長だけなら拳一つ分、五センチほどの違いだが、ススムという彼の方が何故か大きく見えるのは、体格の違いか、雰囲気の違いか、おそらく後者だろう。
 すらっと細い体形の二人は、しかし雰囲気が違い過ぎた。年齢はさほど離れていないが、けらけらと子供のように笑うクウには少年のような雰囲気があり、声に出さず表情だけで笑うススムには随分と年長者な雰囲気があるのだ。
 威圧感の違いというわけでも無いのだが。この二人、今こうしている分には威圧感など微塵も無い。街の人々がクウに軽々と話しかけるのが証拠だろう。あれは勿論ススムにも起こる事だった。
「泳がせて置く事にしたんだな」
「あぁ、お前もそれが良いだろ?」
「ああ。……ここから見えるのか?」
 ススムは先ほどクウが見ていた方向を見やる。おそらく、先ほどクウが言っていた城の南七十七の西八十を探しているのだろうが、彼は顔を顰めて左手の手首内側の袖を捲くった。
 まるで腕時計のようなその機械の左側にあるボタンを数度押すと、文字盤となるはずの場所が押す度に切り替わり、彼が手を止めた時には十字の中心に丸があり、その下に文字と数値が表示されている画面だった。
 南三十一・西二十とある。
「…………相変わらず驚異的だな」
「そうか? だってほら、あそこに礼拝堂が見えるだろ?」
「見えん」
 ススムが間髪入れずにきっぱりと答えたからだろう、けらけらとまるで子供のようにクウは笑って、そうかぁ、などと言う。彼も左手の手首内側の袖を捲くり、右のボタンをかちかちと押した。現れたのは、礼拝堂・南六十・西七十。あー、と意味の無い言葉を発しながらクウは捲くった袖を戻した。
 右に首を捻ると、ごきり、と鈍い音がした。ススムが苦笑して、そんな重たいものを背負っているからだと笑った。
「うるせ。なぁ、怪しいヤツとかはいたか?」
「いいや、リュウが発見した一人以外は特に見当たらなかったな」
「…………となると、単独犯の可能性もあるわけか」
「確率的には一番高いだろう。単独犯の場合は頭を使っていない事が多い。囮なんて回りくどい事をしているわけじゃないとう事になる」
「めんどくせぇ……」
「私たちがそう予測することを想定した作戦という考え方も出来る」
「その考え方やめてくれ。無限に可能性が出てくる」
 そう言ってクウは短い黒髪をがしがしと掻いた。どうやら頭を使う事は苦手のようだ。ススムも穏やかに微笑んで返事に代える。
 クウが一歩を踏み出した。ススムと合流する事が目的だったらしく、もうここには用が無いのだろう。ススムもそれに続く。一応は警戒をしているのか、少し低い建物を選んで二人は軽々と飛ぶように駆けていく。街の人々からは見えているのかいないのか、ただし指をさされている事は無い様だった。
 というよりも、彼らがこうやって街を飛び交っているのは警備の一環だと思われているのかもしれない。同じ高さの建物の屋根には身軽な軍服を着た青年らが幾人か居り、一様に彼らに敬礼を向けていた。
「リュウ、聞こえるか」
 ススムがクウの後ろを行きながら、右の耳元にある宝石を数度押してからそう呟くように言った。ススムの耳にはクウがつけているのと同じ飾りがある。ざざ、ざざざ、とノイズがまた聞こえた。ただし、ススムの耳元からではなく、クウの耳元からだ。
「あぁ、聞こえていただろう? ……そうだ。今からとりあえずキースの元へ向かう。そっちはどうだ。……あぁ、私が街全体を見回ったからな。……そうか、ならばそうしてくれ」
「なぁリュウ、俺の無線、ノイズ酷い。スペア用意しといて。……あ、マジで? じゃあ俺が間違ったのか」
「阿呆が」
「うるせぇ」
 そのリュウ、という相手がどこにいるのかは定かではないが、リュウの声は二人に同時に伝わっている。耳につけているやたらと装飾の多い、無線から伝わってくるのだろう。
 ススムが数度声をかけて、クウの耳からまたブチッという音が聞こえてきた。存外大きい音だったのだろう、クウは不快そうに顔を顰める。ススムが自業自得だと笑ったのは聞かない事にしたようで、前を向いたまま建物を跳び行く速度を速めた。子供のようなその行為にススムは笑って、同じく速度を速め、彼を追った。


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