其々の旅路

伯馬(リウハ)のオリジナル小説

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こんなサイトでもリンクして頂けるかはわかりませんが、一応礼儀として。

管理人:伯馬もしくはリウハ
サイト名:其々の旅路
アドレス:http://riu89ma.jugem.jp/
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笑師 01
01
 夕暮れの街を、僕はただただ歩いていた。
 どこに行きたい訳でもない。家に帰りたくないだけだ。
 学校が終わってまだ少ししか時間は経っていない。僕が通う高校は偏差値それなりの公立高校。僕のように平々凡々とした男女が多い。だから学校の周りをうろうろしていると顔見知りに遭遇したりするので、僕は下校時間になると家とは逆方向に足を進める癖をこの一年間で身につけてしまった。
 ……いや、身につけるってほど大層なものじゃないか。
 息苦しい学ランのホックをしっかりと上まで止めて、シャツも見えないようにしっかりとズボンの中へ入れる。先生に睨まれるのが一番面倒だと思うから、僕は平凡な優等生を演じていた。
 別に勉強しなくてもそこそこの成績は取れる。あまり優秀すぎて先生に可愛がられるのも嫌だし、馬鹿すぎて小言を言われるのも嫌だ。素行が悪いと絡まれるのだって嫌だし、存在感が無いと笑われるのも嫌だった。
 時々、自分は生きている意味なんかあるんだろうかと思う。
 親も僕と同じく平凡で、サラリーマンにパート主婦。二人とも親は他界しているから面倒ごともそんなにない。
 人生ってこんなもの。別に高望みしない。
 そんな僕の唯一の楽しみがこの今歩いている道をのんびりと散歩すること。
 学校から家へと逆方向、閑散とした住宅街。緩やかな坂がどこまででも続き、今日みたいな夕陽はとても綺麗に見えるので、僕は勝手に「夕日散歩道」と名付けて満足しながら歩いていた。
 趣味? 違うんじゃないかな。学校があった時にここを通って時間を潰してから家に向かうだけだから。行動範囲が狭い僕にとっては、一番楽しい場所がここ、ってだけで。
 ……いやいや、僕は妄想狂か何かか?誰に語りかけてるんだ全く。
 どうでもいいことをふらふらと考えながら、僕は道を歩いていく。
 普段と変わらない平凡な道。
 いいよなぁ……平凡って。つまらないとか色々言うヤツはいるけどさ、人生歯車が大事だと思うよ。流されるってのが一番楽だと思うし。けど疲れちゃったらこうやって自分の好きなことやりつつ息抜きして、また次の日からは歯車になる。流れに流される平凡な存在に。
 そう、だから今日も。
 たとえ目の前に、「お前はどこで何をしてたんだ!」と叫びだしたくなるようなセーラー服を着た女の子がいたとしても。
 具体的にどこが、って。
 傷だらけで血だらけで、泥だらけでぼろぼろだった。
「……えー、ちょっと待ってよ。返してよ僕の平凡……」
「今時、自分のことを僕なんて呼んでる時点でアナタは平凡じゃないわ」
 風が強く吹いたのかな、というような音――ひゅ、という音と共に、その女の子の顔が僕の目の前にあった。
 ち、近い。息が、息が!
 僕だって健全な男子高校生この春から二年生になりました! 誕生日が三月なのでまだ十六ですだからお願いだから近づかないでってばちょっと、ねぇ!
「一人称が、僕? 時代遅れもいいところね」
「いや、あの。どうでもいいから、離れて欲しいんだけど」
「何かしら、聞こえないわ。もっと近づけって言ったのかしら?」
 や、だから、その、ね? 近づいたら、ほら、息が、
「――っだぁ!」
 というわけで、僕は思わず彼女を突き飛ばしてしまったのだった。
 いやだって突き飛ばさない方がおかしいだろ今のは!
 ってか何でこの女の子は僕が突き飛ばしたにも関わらずひらりと華麗にその身を舞わせて地面に着地してるんですか!
「あら……気に入らなかった?」
 気に入るとか気に入らないとかの問題じゃない!
 初対面だよね!? 別に僕、ギャルゲーとかの主人公じゃないよね!? フラグ立ってるわけじゃないよね!?
 ……ああもう今の発言で僕が中途半端なオタクだってことが露見したよ……、まぁいいや……。
「今時の男子コーコーセーというものはキスを喜ぶと聞いていたんだけれど」
「どこから得た情報ですかそれは……」
 僕の呆れた声に彼女はけろりとして答える。ぴ、と夕日散歩道の下を示しながら。
「さっきそこら辺を歩いてた茶髪にピアスの頭悪そうな男子コーコーセーよ」
「……僕と一緒にしないでほしいなぁ」
「そうね、まだアナタは合理的主義者に見えるわ」
「……そうともさ」
 僕は平凡を愛する男だから。
 何事も合理的に、行き過ぎず、行かなさ過ぎず、やり過ぎず、やらなさ過ぎず。
 ……言葉がおかしい気がするがまぁいいや。
 ぼろぼろのセーラー服の彼女はその綺麗な栗色の髪をさらりと風になびかせて、つかつかとまた僕に歩み寄って来た。もうキスするつもりはないのだろう、距離を置いて立ち止まる、のだけれど……でもやっぱり近い。彼女のちょっと小さめな胸が、当たりそう。
「エッチ」
 ペシン、と小気味いいい音が響く。
 僕の頬に平手がクリティカルヒットしたのだった。
 漫画みたいに真っ赤な痕がついたらヤだなぁ……明日学校行けないじゃん。
「って、何でいきなり僕がエッチ呼ばわりされなきゃならないんだ!」
「悪かったわね、小さい胸で」
「え、あ、いや、その」
「戦うには楽なのよ。ボインだと揺れて邪魔でしょ」
「ボインって、何か他に言い方……、…………」
 いやいやいや、そこじゃないだろ僕。
 何で彼女は、僕が考えていることがわかってるんだ?
 そこまでヤラしい目、してたかなぁ……いや、してないと思う。
 と言うことは何か、今時流行りのエスパー少女ですか。超能力で僕の考えてること見抜けちゃった? うわぁ、それは困るよ……。
「全部聞こえてるわけじゃないわ。アナタの感情が特に篭った部分だけ聞こえるの」
「何だそれフォローになってないなぁ。僕が小さい胸好きってことバレちゃってるじゃん」
「エッチ」
 もう一度平手を食らってしまった。
 ……うーん、墓穴。女の子は大概にして小さい胸を気にしてるから、きっと先ほどの発言も強がりに違いない。
 ……いやいやいや、さっきの発言だっておかしいだろ気付けよ僕。
 『戦う』ってなんだよ。いつの時代? セーラー服で戦うわけ? 何かそういうの一杯あるよなぁ。
「で? アナタ、名前を聞かせて頂戴」
「タナカハジメ。一般的な田中に、元気の元でハジメ。君の名前は?」
「教えないわよエッチには」
 ……うーん、名前を聞かせたんだから聞かせてよ作戦は失敗に終わったらしい。ていうか始まる隙を与えてくれなかった。
 つーかいつまでエッチを引っ張るんだ、彼女は。女の子としてどうかと思う。
「エッチって、変態をローマ字にした最初の一文字Hからとったんだってね」
「私はサイトウヒイラギよ。一般的な斉藤に、木と冬で柊」
「へぇ、可愛い名前」
「エッチ」
「何故に!?」
 ていうか雑学聞かせたらすぐに名前教えるってどうなのそれ。もうちょっとためらいとかないわけ? 僕、そんなにたくさん雑学知ってるわけじゃないのに。どうしよう本とか読まなきゃ。
 ふと彼女を見ると、くすくすと堪えたように笑っている――んだけど、俯いているから表情は見えない。うーん、それはずるい。
「前言撤回するわ。変態」
「あぁありがとう……って、何故に!」
「ふふ。平凡な突っ込みね」
 にやり、と笑うそれは女子高生が浮かべていいような種類の笑顔じゃない。もうちょっと可愛く笑ってくれたっていいのに、と思う。けどまぁそんなこと言ったら平手で叩かれそうなのでやめとこう。
 僕の名前は平凡だけど、彼女の名前は中途半端に平凡だ。斉藤、という苗字は確かによくあるけど、「柊」なんて名前、そうそういないと思うなぁ。可愛いけど。
「それじゃあアート、行きましょうか」
「…………はい?」
「だって、ハジメって名前なんでしょう?じゃあSTARTだから、ART」
「……ネーミングセンスって知ってる?」
「知らないわ。変態」
「変態関係ないし。普通にハジメでいいよ。というか、どこに連れて行かれるわけ?」
「私が行くところに」
 答えになってない、と言おうとして口を開くと、またもや彼女の顔が近づいてきて、キスをされてしまった。
 ……僕、一応いままで彼女いなかったんだけどなぁ。
 抵抗する気力が無くて、彼女が離れるまで大人しく待つことにした。待つことにしたその瞬間に彼女が離れるので一瞬残念に思ってしまったのはヒミツ。
 そして周りを見回すと、
 何時の間にやらそこは、真っ黒な世界。
 目を開いて見えたのは、依然として僕の目の前にいる柊だけ。
 ……サイトウって呼んだほうがいいのかな……。でもヒイラギ、でも量は変わらないし。
 とりあえず試しに名前で呼んでみる。
「ねぇ、柊」
「いきなり名前で呼ぶなんて、やっぱり変態ね」
 ……そう来るとは思ったけども。
 つん、と彼女は腕を組んで顔を逸らし、ちらりと横目で僕を見ている。仕方ないので呼びなおしてみた。
「……斉藤さん」
「柊でいいわ」
「どっちだよ!」
 ええい、漫才してる場合じゃない。彼女が僕にキスしてきて、そうして目を開いた瞬間にあったのは、ただの真っ黒な世界はだったんだ。
 いや、真っ暗な、かもしれない。ただ、延々と見えるはただの黒い空間。
 光源が無い気がするけれど、柊だけははっきりと見えた。
「ねぇアート」
「や、だからそれ、やめない?」
「やめないわ」
「やめてくださいお願いします」
「……じゃあなんて呼べばいいのかしら?」
「だからハジメでいいってば」
 何度同じことを言わせるつもりだろう……いやまだこれ二回目だけど、この調子だと三回目四回目ってありそうで怖いなぁ……案外天然なのか? それとも狙ってる?
 ……まぁいいや。
「で、何?」
「さてここはどこでしょう」
「知るかッ!」
 思わず即効突っ込みだよ!
 だってつれてきたのは柊だし、僕は全く状況が理解できていないんだし。それより何より、一度気にすると本当に気になってきた。どうして柊だけこんなにはっきりくっきり見えるんだろう?
「エッチ」
「はい!?」
「私のことだけ見てるのね、エッチ」
「違うっ!」
 あぁもうまた聞こえてるしッ! 今そんなに感情篭ったかなぁ?
「柊しか見えないだけだ!」
「あら、素敵な口説き文句じゃない」
「口説いてない!」
 ああ……僕ってこんなに突っ込み担当だったっけ……柊がなんか、こう、もっとクールビューティな印象あるのになぁ。
 栗色の長いストレートに、……ぼろぼろのセーラー服。目は黒、身長は一六〇くらいかな? どことなく終始凛とした雰囲気が漂ってるんだけど、……やっぱりボケだ。狙っているのかもしれないけれど。
 短い黒髪に黒い目に平均身長の僕なか隣に並んでいたら存在感薄れるなぁ……。ていうか柊をダメにしちゃいそうだけど、……まぁいいや。
「で、どこだと思う?」
「わかるわけないじゃん、柊が連れてきたんだし」
「つまんないわね、ボケなさい」
「無理」
「……あ、そう。じゃ、先に行くから」
 え、僕なんか怒らせることした?
 ……してないよね? してないよね?
 ボケなきゃいけない理由なんかなかったしね!?
 柊はくるりと背を向けて、しゃんと背を伸ばしたまま歩き出してしまった。
 ずかずかと先を行く柊の背中を僕は必死に追う。案外早いのに微塵も早さにぶれがなくて驚いた。早足で歩くのって意外に難しいじゃん、しかも柊はまるでモデル歩きみたいにすっと歩いていくから。
けれどもっと驚いたのは、ふと何気なく後ろを振り返ってみた時に見えた光景だった。
 僕も柊も真っ黒な場所を歩いてきたのだから振り返っても真っ黒な場所があるだけのはずなのに、遠くに遠くに、やけに鮮明に、僕が歩いていた「夕日散歩道」が見えていた。
 一瞬、そっちへ行こうかと思った。こんなわけのわからない状況から脱せるかもしれないと思ったから。だけど何か変なことが起こるのも嫌で、僕はやはり先を行く柊の背中を追い掛け続けていた。

 もしかしたらこの時、向こうへ試しに戻っていれば僕はこれから先に起こりうる様々な出来事を回避出来たのかもしれない。――いいや、やっぱりダメだったのだろう。俗に言う「魂の運命」だったのだから。

 けれど、ここはどこなんだろう? やっぱり異世界とかなのかなぁ……。別に僕は今の今までの生活に満足しているわけじゃないけど不満が有ったわけじゃないから、どちらかと言えば帰りたいんだよな。
 ……普段はあまり好きでもない自分の家がなんだか恋しくなってきた。重症だな……。
 ふと、何となく前方が明るくなってきた気がして僕は少しだけ辺りを見回した。ほんのりと周囲が照らされている気がするけど、やっぱり何も見えない。
「ねぇ、」
「うっわ!」
「ベタなリアクションね、売れないわよ」
「売れなくていいし!」
柊の声が久々に聞こえたと思ったら、また物凄く近くに彼女はいた。
……驚くなって方が無理だよ、僕だって人並みに臆病なんだから。
どっちかって言えば怖い話よりお化け屋敷が怖いんだから。要するにビックリどっきりに弱いってことで。
「で、何?」
「あぁそうそう。これからここの外に出るから、はぐれないように私に触っていて頂戴」
……えーと? その発言が微妙なラインだということはこの際無視だ、ボケかもしれない。突っ込んだら負けだ。
普通ここは手を繋ぐとかだよな? 何でそう言わないんだろ。
思いながら柊の手を取ろうとしたら、何考えてるの、という声とともにぺしりと思い切り手を叩かれた。
……痛い、しかも案外強烈に痛い。
「痛いわね」
「はい?」
「アナタの手を叩いたから私の手も痛いわ」
「自業自得だッ!」
それは柊が悪いだろ! ていうか僕はなんで叩かれたのかわかんないし!
まだ痛みが残っているのか、柊は手のひらをじぃっと見て、そして僕に視線を向ける。僕の手を取って、
あろうことか、腰に回させた。
「え、ちょ!?」
「両手は使うから掴まれたくないの」
「いやだからってもうちょっと別の、」
「詠唱するから邪魔しないで」
……そう言われたら何も言えません。詠唱、というのが何となく「呪文の」だとわかる事に一瞬だけど自己嫌悪。そして即座に開き直り。
おとなしく僕は柊の腰に手を回したまま彼女の視線の先を見た。
何もない。
あると言えば真っ黒な場所……いや、違う。まわりがほんのり明るいからそこが無機質な物体だということがわかった。
黒い壁だ。周りがこの程度明るくなければ直撃しただろうな……。いや僕だったらこのくらいの明るさなら間違いなくぶつかってた、と思う。
柊はこんこん、とその壁を叩いて、何やら一言呟いた。
すると壁の一部、人が通れるくらいの長方形が右へずれていく。音が何もしない。一体どういう仕組みなのかなと考えようとしたけれどすぐに諦める。
RPGのような世界なら考えても無意味だし。僕の常識を越えているから。いやまぁゲーム世界の常識なら数十種持ってるけど、リアルワールドでRPGな世界は初体験だし。……いや、うん。これっきりだと思いたい。
その長方形の向こうには、なんとも平凡な田舎町の風景があった。いや、平凡じゃない田舎町ってどんなの? と聞かれたら困るんだけどさ。
なんだこんなに簡単ならわざわざ腰を抱かなくてもいいんじゃないか? と思っていると、柊はその風景に右手を伸ばし、空中に魔方陣のようなものを描き始めた。
どうやら、ガラスのようなものがそこにあるらしかった。じっくり見ていると木々が揺れているのにこっちには微塵も風が来ない。
少しの余裕ができて風景を見てみると気が付いた。どうやら三階くらいの建物の高さくらいがある。近場に物が何もないからわからなかったけど、見えている木々などは随分遠いらしかった。遠近感覚が変になりそうなくらいに何もない。
ふと、魔方陣を描き終えたのか柊は一度手を下ろした。描かれた魔方陣は蛍光紫のような色で、理解不能な模様だった。それに柊は両手をかざす。
詠唱らしいそれは、今度はしっかり聞こえた。
「朝日は西に夕日は東に、雲は大地に海は空に。我、新たな正義を手に入れしエミシなり。」
なんだそりゃ全部逆さまだ、と思ったのも束の間、突風が僕と柊を襲った。自然と柊を抱き寄せるけれど、柊は自ら僕に寄り添って来る。
 それに少しだけ驚いた。エッチとか言って僕のことを罵っていたくせに、とも思うけれど、別段嫌な気はしなかった。

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| 笑師 | 18:05 | comments(0) | - |
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