其々の旅路

伯馬(リウハ)のオリジナル小説

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管理人:伯馬もしくはリウハ
サイト名:其々の旅路
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笑師 02-1
02-1
突風はしばらくの間続いた。柊の腰を抱いたまま僕は目を瞑ってその突風に耐える。
目を開けていればもしかしたら移動する瞬間が見えたかもしれないけれど、目を開けることは出来なかった。
それほど強い風だったからだ。勿論こんな風を体感したことは今までになかった僕には風速が何メートルなのか計ることも出来なかったけど。
「……柊?」
「何?」
「えっと、その……」
突風が収まってゆっくりと目を開けば、そこに広がっていたのは何だか随分と怪しげな部屋だった。
まず全体的に薄暗い。まぁさっきまで歩いてた所に比べたらかなり明るいけど、部屋の明かりは四隅にある燭台のみ。一つの燭台に五本の蝋燭がゆらゆら揺れていた。蝋燭独特の、頼りないその光はどこか不安を煽る。
そしてその蝋燭に照らされているこの部屋は、淡い紫色だった。まるで魔術師がいるかのような、そんな。
「ここ、どこ?」
「招きの間、らしいわ。要するに物語のスタート地点ね」
……わかりやすい解説をありがとう。
でもちょっと待って。物語? 何それ。柊、頭大丈夫? と本気で聞きたい。
もしかして「アナタは選ばれし勇者だからこれから私と魔王を退治に行くのよ」みたいな?
うわ、勘弁! 僕は平凡な町民でお願いします! 「ここは始まりの町、うんちゃらかんちゃら」みたいな役割で充分だよ!?
「心配しなくとも、勇者はアナタじゃないわ」
さすがにこれは感情がこもっていたことを否定できない。だって叫んじゃったから。けどじゃあなんだ、柊が勇者?もしくはお姫様? もしくは選ばれし賢者、とか。
……僕が如何にRPGが好きなのか露見した気がする。……まぁいいや。
「違うわ」
「え? あ、聞こえてた?」
 僕の言葉にただ頷いた。
うーん、考え様によっては便利かな、その……読心術みたいなの。でも聞こえているか聞こえてないかわからないから不便なのかな。
「私は勇者じゃないし姫さまでもないし賢者でもないわよ」
「じゃあ、なに?」
「エミシ」
柊はそれだけ答えるとこっちよ、と言ってまた歩き始めた。今まで腰を抱いていた手がなんだか寂しい……なんてことは置いといて! 僕は変態かッ!
「変態ね」
「聞こえてた!」
「なんでかしらね、アナタの声はよく聞こえるわ。相性がいいのかしら」
やっぱり不便だその能力!
おちおち考え事も出来ないじゃないか!
心の中で虚しく突っ込みをいれてから僕は前を歩く柊を追った。
部屋から扉無しに続いている廊下を先に行く柊を追いながら部屋を振り替えれば、そこはただの真っ黒な部屋で、床に魔方陣が輝いているだけだった。柊が描いていた魔方陣の、拡大したものに思えた。

  *

場所は変わって、あの暗い場所で見た田舎町を僕と柊は歩いていた。魔方陣のある部屋を出て廊下を黙々と歩くと出た外がここだっただけだ。
前を行く柊を僕は追う。隣に並べばいいのに、と思うかもしれないけど僕はこの場所を、……というかこの世界をほとんど全く知らないので、黙ってついていくのならこの位置が楽だ。
町は、のほほんとしていた。のんびり、というよりも。草木が十二分に生い茂り、気温は二十度くらいだろうか?鳥――であろう妙な声を発しながら飛んでいく何かがあったり、田んぼ――であろう真っ赤な草が茂っている何かがあったり。
……色々突っ込みどころは満載だけど、無視。受け入れろ、僕。
「ねぇ、」
「ぅあ、何?」
柊がくるりと振り向いて僕に呼び掛けた。これでもう四度目だけど、やっぱり慣れない。ていうか無理。だって柊ってば突拍子無く振り向くから。距離は遠くなったけど。
柊は僕に数度質問をしていた。聞かれたのは年齢と身長と得意科目、苦手科目。
ちなみに身長は一七五センチメートル、得意科目は国語と生物。苦手なのは英語と数学。それと、何故か好きなトランプゲームを聞かれた。何の役に立つのかわからないけど一応大富豪と答えておいた、順当に。
けど本当に何に使うんだろうそんな情報……。
「夕日と朝日ならどっちが好き?」
 やっぱり今度も質問で、彼女は小首を傾げてさも疑問そうに聞いてきたけど……質問に脈絡が無さ過ぎると思うのは僕だけだろうか。いや、ここには僕しかいないんだけど。
「えっと、夕日」
これには悩むことなく答えられた。理由は簡単、僕は朝日を見たことがないのだった。
……だってそんな時間に起きないし。
「そう」
「あ、」
そして柊はすぐにくるりと前を向いてしまう。
 僕はそれで幾度となく会話のチャンスを逃していたのだけれど、よくよく考えれば前を向いているからといって僕が話し掛けちゃいけない理由にはなっていないわけで。
「柊は?」
「何が?」
「夕日と朝日ならどっちが好き?」
先程の柊と同じように質問をすれば、何故か彼女は嬉しそうに笑った。
「夕日が好きよ」
なんだ、ちゃんと可愛く笑えるんじゃん。
そう、と返しながら僕は一瞬歩調を早め、柊よりわずかに後ろ、けれどほとんど隣を歩く。
「トランプゲームは?」
「ポーカー」
僕が質問しながら、柊が質問しながら、歩調はちっとも緩めず歩き続ける。
たまに同じ答えだったりもしたけれど、正反対だったりもして。そして僕は幾度となく話し掛ける機会をうかがっていた理由にもなったことを、口にする。
「エミシ、って?」
 僕の質問に、柊はしばらく黙ってしまった。
 柊が足を止めるので必然的に僕も足を止めて柊を見る。
 ゲームやマンガのワンシーンなら、車の通る音や人のざわめきが僕らを包むのだろうけど、終始聞こえていたのは不気味な歌声だった。
――せかいがこわれた
  そのときわらう
  わらうはエミシ
  エミシはこわい
  ひめといっしょに
  せかいのために
  エミシはわらう――
 最後の方はフェードアウト。
 こ、怖い? エミシのことがッ!?
 待て待て待て、じゃあ何か、こっちはもしかして「悪者」サイドか!?
 お姫様をどうするわけッ!?
「あの、柊?」
「エミシは、笑いを扱うの」
「……はい?」
 彼女は難しい顔をしながらただそれだけ言って、また黙ってしまった。
 説明が難しい、ってことなのかな。
 確かに、僕はまだこの世界の仕組みをわかってないから説明をしている最中に説明をしなきゃいけなくなって、話が混乱してしまう可能性はある。
 ……だからだと思いたい。
「……説明は後にしましょう」
「うーん……」
「まだ、時期じゃないわ」
「……そう?」
 さっきはあんなに考え込んでいたのに、柊は僕にそう言って、尚且つ自分を納得させるかのように、こくりと頷いた。
 それには一体どういう意味があるんだろうか……。
「まずはアナタを三人に紹介しなきゃいけないわ。その三人に会ったら説明もしやすいし」
 僕の意見を聞く気はないのか、柊はまた歩き始めてしまった。彼女は考え事をしているようだったので、それからずっと無言で僕らは歩を進めた。
 柊について歩きながら僕は落ち着き無く辺りを見回す。
 田んぼや畑らしきものはあるけれど、人が一切いない。さっきの歌はどこから聞こえてきたものだったのだろうか。植えてあるわけのわからない植物も手入れされているようには見えなかった。
 僕は田んぼや畑を直接何度も見たことがあるわけじゃないし、農家の手伝いもしたことがないからわからないけど……でも、手入れしていないなってことくらいはわかる。
 雑草が生い茂っているし、成長具合もまばらに見えた。
 そういう植物っていう可能性もあるんだけどね。
「あ、……村?」
 前方に家が並んでいるのが見えた。遠目からでもぽつぽつとしか建っていないのがわかる。
「いいえ、私たちの住んでいる場所。村でも町でもないわ」
 僕の呟きに柊はそう返してくれた。僕と柊の前方にある数件の家はいかにもRPGという感じだ。どんな感じのかといえば石造りが主で、時折煉瓦造りだったりもする。大体が平屋で、二階建ては数件だけ。
「まぁいいわ、オサに会いに行きましょう」
「オサ? ……呼び名なの?」
「違うわ、名前がオサっていうの。まぁ、『長』だけどね」
 ……変な名前の人も多いのかなぁ。
 名前が長、ね。やっぱり年老いているのかな。案外綺麗なオネィサンだったりして。
 ……柊に聞こえると不味いからあまり考えないようにしよう。
「おーい、柊」
「……あぁ、ヌエ」
「うぉう。ヒデェ反応だな、出迎えてやったのによ」
 前方、唐突に柊はすぐ一人の男に声をかけられた。僕が前方をよく見ていなかったからなのだろうか? 突然現れたような気がした。
 随分奇抜な服装をしているなと思ったけれど、よくよく見れば胸当てに肩当てという、要するに兵士の軽装備のような格好だ。
 仲間、だろうな、きっと。きっと柊と一緒に世界を旅する仲間なんだ。
 彼の真っ黒な髪はずいぶんと長く、それを一まとめにして頭の上で括っている。男なのにといったら偏見かもしれないけれど、髪艶がとても綺麗だった。
「ただ単に早く彼を見たかっただけでしょう」
「まぁな」
「そんなことだろうと思ったわ。とりあえず、この格好、解いてくれない?」
「ん? あぁ、なんとか服ね、はいはい」
 真っ黒な瞳は始終面白そうに笑っていて、僕はただ二人のやりとりをみているだけだった。第一印象だけでその人を好きか嫌いか判断するのは嫌なんだけど、何となく好きになれそうにはないと感じた。
 なんとなく、だけどね。特に理由はない。
「装填解除」
 シンプルに彼がそういえば、パンッと何かが弾けるような音がして、同時に閃光が煌めいて、僕は思わず目を瞑る。そして目を開けば、そこには彼と似たような兵士じみた武装をしている柊がいた。
 ……えー、セーラー服って標準装備じゃないんだ、つまらないなぁ。
「お望みとあらばセーラー服でも戦うわ」
「また聞こえてるッ」
「アナタがどうやったら私の話を信じるのか考えた結果よ。ボロボロだったのも血がついていたのも演出」
「いやまぁたぶんその格好で来られても信じなかったよ、うん!」
 見事に柊の作戦にハマった僕。色んな意味で「ありえない」……。
 ていうか僕は予め目を付けられていたってことだよね、それ。じゃあ柊は結局無理矢理でも僕のこと連れてきたんじゃ。
「当たり前でしょ」
「あぁもうまた聞こえてるし!」
 いやでもまぁ確かに僕の学校にはない、知り合いにもいないセーラー服に多少どころかかなりときめいたけどね!
「私にときめいたのね」
「違うッ!ていうかなんで聞こえるんだよ!」
「俺にも聞こえてるぜ」
 恥ずかしいな僕!! 変態じゃん!
 って、また柊にからかわれ――……え?
 柊がいかにも僕をからかいそうな場面。それなのに何故か彼女は黒い彼と顔を見合わせて、驚いたような表情をしていた。僕がそれに、驚いてしまう。
 ……どういうこと? 僕、何か不味いことでも言ったのかな。
「こんなにハッキリ聞こえるものなの?」
「さぁな……、俺は洗礼前のハナには会ってないけど、お前の声はこんなにハッキリ聞こえなかったぜ?」
「洗礼前のハナには会ったけど……、でも、こんなにハッキリ聞こえなかったわ」
「じゃあアレだろ、こいつ、ハマってんだよ」
 そうして二人とも同じように僕を見て、同じように、含んだような気味の悪い笑みを浮かべた。
 そして――何故だろうか。二人がにやりと笑みを浮かべて僕を見たその瞬間、僕は不可思議な感覚に襲われた。
 まずは景色が揺らぐ。瞳孔が開いてしまったのかと思うくらい強烈な光を感じる。それなのに僕は瞳を閉じる気にはなれなくて、ただその光を吸収してしまった。当然と言うべきか、ぐらりと体が倒れてしまいそうになるくらいの吐き気に襲われる。
「アート?」
 だから柊、その呼び方は嫌だって……もうちょっと他に無いのかなぁ。
 名前って言えば、さっきの男の名前、ヌエだっけ? なんか……センスないよなぁ……、あの鵺だよな、きっと。
 長って名前の人もいるらしいし……案外僕のハジメって名前がいい名前に思えてきた。
 なんてことを考えているうちにいつの間にか気持ち悪さは消えていて、僕はゆっくり目を開けた。
「大丈夫? アート」
 先ほど僕が訂正を要求しなかったからだろうか、柊はまた僕をそう呼んだ。
 いや、だから、やっぱり柊ってネーミングセンス無いと思う……もしかしなくともそのアートっての気に入っているんじゃないだろうか。
「柊……、元って呼んでくれない?」
「あぁ、忘れてたわ」
 ひどっ!
 でもよく考えてみれば、……柊に名前呼ばれてないな。
 ちょっと淋しかったり。
……いやいや何を考えてるんだ僕は。
「なんだぁ? お前、アートって名前じゃねぇの?」
「違うよ、それは柊がそう呼んでいるだけで僕はハジメ。田中元っていうんだ」
 テストの時にかなり早く名前が書き終わるからかなり楽。
 それはそうと……さっきのあの感覚、一体何だったんだろう? 気持ち悪さもなくなったし、かといって何か変わったことが起こってるわけでもなさそうだった。体が傾いて倒れてしまったように思ったけれど、二人の様子を見ている限り、そして目を開けた時に真っ直ぐ立っていたことを考えれば、倒れたりはしていないのだろう。
 王道ならここで眠っていた能力とかが目覚めるはずなんだけど……。というか、柊たちは僕がさっき具合が悪くなったことに気が付いていないんだろうか? でも柊は大丈夫? って聞いてきたし……。
「んじゃぁ、モトってのはどうだ?」
 何てことを考えていると、彼がさも名案が浮かんだというように言った。
「……却下」
「ぅお、ひでぇ!」
 僕の言葉に彼はそう言って豪快に笑った。……そういやちゃんとした名前を聞いていなかったっけ。
 そう思った瞬間、柊の声が聞こえた。
「ネーミングセンス無いのはアンタじゃない、私の方がぜんっぜん格好良いわ!」
 え、柊?
 ……柊の声だよね? でも……なんか違う気がする。
「そんなキャラだっけ?」
「……何が?」
 僕に問いかけられて、柊は一体何のことかさっぱりわからない、という表情で僕を見返した。
 何が、って、決まってるじゃないか。
 柊ってあんな感情的に喋るキャラじゃないよね?
 なんていうか、こう……鼻で笑ってから相手を罵倒して、それから誇らしげに言うような。
「ふん、なによ、ヌエもネーミングセンス無いじゃない。私のアートの方がよっぽどいいわよ」
 ……えっと?
「柊……同じこと二回言った?」
「言うわけ無いでしょう」
「でもさっき、確かに……」
「私の声が聞こえたの?」
「うん、ネーミングセンス無いのはアンタじゃない! とか言わなかった?」
「あら、じゃあ覚醒が始まったのね」
 柊はさも当然というように言ってのける。
 か、覚醒?
 ってことはやっぱりあれか、秘められた能力が……みたいな?そして僕は偉い役職に大抜擢、みたいな?
 うーわ、勘弁!
「安心して、誰にでも開花する力よ」
「んでもって『洗礼』を受けたら、受けたもの同士では聞こえなくなるからよ」
 あぁ、じゃあ柊と……ヌエさんとでは聞こえないってことか。うん、すっごく安心した。このままの状態が延々続くのは困るし。
「あ、そうだ、名前」
 そうそう、ヌエさんに名前を聞こうと思っていたんだ。この二人と話していると思考が脱線して仕方が無い。
 でも、どう切り出そう?なんか自然な流れがほしい。いや別に聞いてなかったと言えばいい話なんだろうけど。
「あぁ、俺の自己紹介してなかったっけな」
 そういって彼が豪快に笑うので安心する。話の通じる人なのだろう。少なくとも柊よりは。
 柊は通じる通じないよりまず通じようとする意思がないしね。
「俺は鵺、同じく笑師。他に特別言うことはねぇけどよ、まぁよろしくな」
「鵺、って変わった名前だよね」
「あぁ、俺、鵺が好きなんだ」
 ……どういうことだろう、それ。鵺って源氏だか平家だかの物語で出てくる妖怪だよね? それが好きって……あ、要するに、その話が好きってこと?
「平家物語に出てくるあの鵺がすっげぇ好きでさ! 戦闘は暗唱出来るぐらいだからなぁ」
「へ、へぇ……」
 案の定、その鵺だったらしい。けど今時彼みたいな性質の人が平家物語って……。あぁあれは軍記ものだったっけ。
けど物好きだよな……国語は好きだけど古典はあんまり好きじゃないから僕にはよくわからない。軍記より日記とか随筆とかが好きだし。
「今みたいに印刷技術がないからよ、こう、巻き物とかに移し書きしてさ。俺は読み方が荒いからすぐぼろぼろにしちまって、結局五、六回書き直したっけな」
「……はい?」
 えーと? なんだか嫌な予感がする。もしかしなくとも鵺って、……いやいや、ありえないだろ。
 僕は浮かんだ仮定を振り払いたくて、何とはなしに鵺に質問をしていた。
「い、いくつ?」
「俺か? 二十五だ。ま、もう何百年も経ってるがな」
 ぎゃは、と鵺は下品に笑った。
 ……しなきゃよかった! ありえない!
 時空トリップ? タイムスリップ!? なんにせよ今生きてていい存在じゃないッ!
 てか何百年も経ってるってんなら、えーと、……なんだ?あれ、なんか引っ掛かる……。
「しっかし、よく聞こえるなぁお前の声」
「あ、また、聞こえてた?」
 何か考えていたのだけれど、鵺がぎゃははと笑うので僕の思考はそこで中断してしまった。それ以上考える気にはならなかったので、大したことじゃあなかったんだろう。
「おう、もちろん」
「じゃあ質問に答えてくれる?」
 あん? と鵺は不思議そうな顔をしたが、聞こえていた僕の声を反芻でもしていたのか、少し考えるようにして、あぁ、と今度は呟いた。
「俺が何でここに生きているか、って?」
「そう」
「単純な話だ。この世界では何もかも成長しない。俺は永遠に二十五歳のままだし、柊もずっとそのまんまだ。老いないんだよ」
「悪かったわね」
「悪いなんて言ってねぇだろうよ……」
「あら、そう」
 成長を、止める。
 ……この世界では?
 だから鵺は二十五歳のまま成長が止まっている、だから今ここにいる、だから僕と話をしている。
 確かにそれが事実なのだとしたら何の不思議もない。だけど、そんなことがありえるのだろうか?
 老いない、ということがイコール成長しないではないとは思う。思考だの何だのは成長を続けるだろう。だけど身体的には一切変わらない。この世界に来た時の状態のまま、止まる。そのまま、生き続ける……。
「とは言っても、死ぬことはあるけどな」
「え?」
「物理的な攻撃を加えられれば、死ぬこともある。大怪我とかだな。病死した例は聞いたことがねぇけど」
 それを僕だけではなく柊も意外そうに聞いていた。どうやら柊よりも鵺の方がこの世界には詳しいらしい。僕と柊が彼を見ていれば、彼は何が面白かったのか、ぎゃははっと笑った。どうやら彼の地の笑い方がそれのようだ。
 絶対武士とかだよな。間違っても貴族とかじゃなさそう。
「あ、」
 ふと思い当たって僕は柊を見る。セーラー服の存在を知っていた辺り、結構近代の人なんじゃないかな、と思ったから。
 聞こうとして口を開きかけたのだけれど、それより先に柊が口を開いた。
「鵺は、クゲよ」
「へぇそうなん……え!」
 どうやらさっきの僕の呟きが聞こえていたらしい……けど、ちょ、待った。
 クゲ? えっとそれは、公家……だよ、ね。
「嘘だッ!」
「よく言われるって」
 鵺はげらげらと笑う。公家というイメージからはかけ離れた下品な笑い方だ。
 公家っていうと、ほら蹴鞠とかさ。和歌とかさ。なんかそういうのあるじゃん。こう……たおやかっていうか、そんな感じの。
 あれか、ありがちな感じか。キャラ立ちさせるためにそういう意外な設定かッ!
「まぁ冗談だけどな」
「って、おい!」
 思わず即ツッコミ。
 ……いやいやいや、何なんだこいつらは。言っとくけど僕は平家物語より源氏物語より、枕草子が好きだから!
「ただの農民に決まってんだろ、ここにいるんだからよ」
「……どういうこと?」
 ここに……この世界にいるのは、ってこと……だよね。
 ただの農民?
 ……ただ、の。そうか、平凡な、ってことか……。
「そういうことだ。お前と同じでな」
「…………」
 確かに僕は、平凡だ。
何の取り柄もないし、目立った欠点もコンプレックスもない。身長も身体能力も学力も平凡。好奇心だって平凡だし、今時どこにでもいる中途半端に足を突っ込んだだけのゲームオタク、ただし本当のオタクさんに比べたらまだまだひよっこだ。鼻で笑われる。本当にただそれだけの、平凡な男子高校生、……だったのに。
 なんでこうなっちゃうのかなぁ、望んでいたのは平凡な日常で、こんな奇抜な日常じゃない。
「安心しなさい」
 柊が僕の考えていることはお見通しだというようにそう言った。……いやまぁ実際に聞こえていたのかもしれないけれど。
「アナタは主人公でもないし、ヒーローでもないわ。重要な鍵を握っているわけでもないし、必ずしも必要な存在かと言われたらそうじゃない」
 ……多少傷つく。
 柊の言葉に鵺は頷くことも無く、ただ無表情だった。彼が何かを知っているように一瞬思ったが、否定しないところをみるとそれは間違いのないことなのかもしれなかった。
「脇役よ」
「でしょうね」
 少し呆れたように僕が言えばそう言ってくるのは想定していたと言うように柊はくすりと笑って、そして言うのだ。
「いずれは名脇役になってもらうわよ」
 ……助演男優賞ですか。


≫02-2
| 笑師 | 18:09 | comments(0) | - |
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