其々の旅路

伯馬(リウハ)のオリジナル小説

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管理人:伯馬もしくはリウハ
サイト名:其々の旅路
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笑師 02-2
02-2
 とりあえずは、と馬鹿みたいなやり取りをそこで終えて、柊を先頭に僕と鵺は並んで二等辺三角形のような形で歩を進め始めた。
 何だか長い時間が経っていたかのように思ったけれど、まだ町に少し足を踏み入れただけだったのだから。
 柊が「三人に会わせる」等と言っていた一人がやはり鵺だったらしい。
 兵士のような軽装をした実年齢不明の男女と、学ランの僕……。ヤなパーティーだなぁ。特に見た目。
「つーかお前も名前、決めておけよ」
 ふと鵺が思いついたようにそう言った、けど……え、何の名前?まさかとはおもうけど……それって。
「何の?」
「テメェの」
 ……やっぱりか!
 今さら名前入力場面なのか! もう大分時間経ってますけど!? いくらストーリー重視したヤツでもこんなに遅くに名前入力はないだろッ!つーか今時なら好きな時に名前変えれるようにしてくれってんだ!
 ていうかそれって、柊も鵺も名前を変えてるって事、だよね……。うん、そっか、そうじゃなきゃ「鵺」なんて名前にはならないよなぁ。
「名字は変えられないわよ」
「え、そうなの?」
「私は名字を変えたかったんだもの。まぁ名前も変えたかったけどね」
 だから柊は斉藤なのか。確かに変えたい、よな。うん、僕もどっちかって言えば名字を変えたい。
 だって田中って有り触れてるじゃん、山田とか佐藤程ではないにしろ。
 男だから婿養子にならないかぎり名字は変わらないから、それはいつも思っていることだったし。名字変えられないのはちょっと残念かも。
「名字あるだけいいじゃねぇか」
「あ……鵺は名字がないんだ?」
「おぅ、元から無いからな」
 そう言えば昔の一般の人とかは名字が無かったんだっけ。名前も識別くらいの役割しか持ってなかったし。
 無いなら無いでいいなぁとは思うけど……所詮は誰しも無い物ねだり、か。それはわかっていても仕方がないことだ。
「あれ? でも決めておく、ってことは……?」
「あぁ、さっきも言っただろ。『洗礼』を受けなきゃならねぇんだよ」
 あぁ、成程、そこで名乗ればいいって事ね。
 ……ん? じゃあなんで名字に関してそんなに厳しいんだろ。……まぁいいや。とりあえずは受け入れろ、をモットーにした方がいい。うん。
「……うん、決めた」
「ぁん? 何をだ?」
 それは色々有るけれど。
 覚悟とか意志とか?
 でもそれよりも今は重要なこと。
「僕は、田中ハジメだよ」
 うん、僕は僕だ。

  *

 歩いて歩いて、まだ僕達は歩いていた。色々な雑談を三人横一列に並んで歩く。歩いているうちに名前に関する一つのことを教えてもらった。
「永久名?」
「そ。これから生きていく数百年数千年……途方も無い年月をその名前で過ごすんだ」
 鵺がそんな言葉から始めてくれた永久名の説明は簡単にこんな感じだった。
 それだけ? と聞けば、まだあるけど面倒だから後、と言われてしまって、僕はまだよくわからない。
 けどわかったのは、この世界で呼び名――特に名字よりも名前のほうがかなり重要だということ。
 どうやら人を呼ぶ際に名字で呼んではいけないらしい。理由はわからないけど。
「さぁ、ここよ」
 そして到着を宣言された時に目の前にあったのは、平凡な二階建アパートに見えた。
 ……えー?
 確か僕らは……長って人に会うために歩いてたんだよね? なのにアパート。しかもこのわけわからない世界で。
 僕は落胆というか拍子抜けというか、そんな感じでアパートをじっくりと観察してみる。
 よくよく見ればやはり妙な箇所がいくつかあった。
 二階に続く外からの階段と通路はあるのに扉は一階に一つしかない。窓も一切無く、それなのに幾つか格子のようなものがある。侵入者や転落を防ぐための、窓にある壁にぴったりくっついているような格子。けれど窓が無いので文字通り壁にくっついていた。
 ……なんだろ、これ。
 思っている間にも柊と鵺は扉に歩み寄っていく。僕も二人の後ろについた。
「おい、手」
「は?」
「鵺と手をつないで頂戴」
 ……変なフラグ立ってるわけじゃないよな。
「つながねぇとお前、侵入者だと思われて死ぬぞ」
「つっ、つなぎます!」
 怖っ!
 僕は慌てて差し出されていた鵺の右手を取った。そして鵺は左手で柊と手をつなぐ。まるで小学生のようだった。
「サイトウヒイラギ」
「ヌエ」
「……タナカハジメ」
 二人が口パクでお前も、アナタも、と伝えてくるので僕もゆっくりと名前を名乗った。
 キィン……という耳鳴りがして一瞬意識が遠退くけれど、鵺が痛いくらいに手を握り返してくれたので何とか意識を手放さずに済んだ。
 ぼんやりと、アパートのような建物の扉が輝いていた。気付いたのが今更なのに僕自身が驚いたけれど、その扉は観音開きだった。
 ……えー?
 まるで洋館のようなその扉はゆっくりと、キィ……という不吉じみた音を立てながらひとりでに開く。まるで某ホラーゲームを彷彿とさせた。やりこんだ僕にしてみれば全く怖くない。けれども、驚いた。扉は自動ドアじゃないかぎり勝手に開くことはありえないから。
 ひとりでに開いた扉に驚いている僕を鵺は引っ張るように歩き始めた。気が付いてみれば柊の姿はない。きっともうこのアパートに入ったのだろう。
 鵺に手を引かれながら、しかし嫌な光景だな、と思った。ぼろぼろのアパートに男二人が手をつないで……――
「……ぉえ……」
「ん?なんだ、魔力に当てられたか?」
「……たぶん違うと思う」
 嫌なものを想像してしまった……。
 そこで鵺はげらげらと下品に笑ってようやく僕の手を離した。
 ――途端、襲う強烈な吐き気。
「ぐぁ……」
 目眩、耳鳴り、頭痛、嘔吐感に倦怠感、胃の辺りにはむかつき。
 一気に不快な症状が押し寄せる。
 つまりこれが魔力に当てられる、ってことだろうか……?鵺と手をつないでいたから襲われなかった、のかな……。
 やけに冷静な頭がそう考える。その間も視界はぐらぐら、ぐらぐら……。
 そういやこんな感覚に襲われるのはこれで何度目だろう……?その何れの場合も倒れることはなかったからきっとそろそろ――
 そう、そして僕はここで意識を手放したのだった。

  *

「倒れた?」
「おぅ、やっとな」
 私の言葉に鵺はひらひらと手を振りながら言った。足元にはアート……いえ、ハジメが倒れている。
 漸く倒れてくれて安心したわ。
「さすがの柊も不慣れなことは出来ないようだな」
「本来なら勧誘も誘拐も説明も長の担当なんでしょう? 私には無理よ、どうして私にそんなことさせるのかしら」
 ハジメの体を鵺が担ぎながら、私たち三人――私と鵺とこの建物の主である長は奥へと進む。
 けど、相変わらず殺風景な場所ね。必要なもの以外何もないんだから。
「ここまで魔力に耐性があるとはね」
「耐性……ではないな。適応力が高いのだ」
 適応……確かにそうかもしれないわね。それが彼を平凡にしている原因。
「これからは長の仕事だろ」
 部屋にある魔力サークルの中央にどさりとハジメを乱暴に落としながら鵺はそう言った。
 これだけの魔力の中にいるというのにハジメは苦痛の表情を浮かべないから、私たちが驚いてしまう。
 私も花も、洗礼を受ける際にはひどい苦しみに襲われているのに。
「しかし妙な男だ」
 長がけらけらと心底楽しそうに笑いながらそう言うので、私も頷くだけで同意を示す。
「洗礼にはどのくらいの時間が掛かりそうなの?」
「何、この男であれば数十分で終わるだろう」
「まじかよ」
 鵺がふざけたように口笛を吹いて、げらげらと笑った。
 ……その笑い方はどうにかならないのかしら、本当に。
 けれど確かに驚きだわ……私も比較的洗礼には時間が掛からなかったけど……それでも四時間だった。鵺にいたっては半日掛かったようだし、あの花でさえ八時間掛かったのに。
「とてつもない適応力……笑師には相応しいがな」
 しかしこれはもう決まってしまった運命だ、と相変わらず楽しそうに長は笑う。
 そう。もう笑姫も二人の笑師も決まってしまった。鵺よりも私よりもハジメが笑師に向いていたとしても、彼にはもう役割がある。
「さて始めよう」
 長はにやりと笑いながら、パチンと指をならす。瞬間全ての灯りが消え、部屋の床でぼんやりと魔力サークルが光り始めた。
「――教えてくれ、洗礼師。彼は何と名乗ったか」
 教えてもらったとおりの問い掛けを私は繰り返す。
 洗礼を行うのは二度目。最初は戸惑ったけれど、今度はきっと大丈夫。
「彼はタナカハジメと名乗った」
「では一体何故そう名乗った」
 私の問いに答えたのは長。それに畳み掛けるように鵺もしっかりと問い掛けをする。鵺は三度目だけれど私の数倍目にしているわけだから、それも当然。
 今までは見守るだけだったけれど、それもこれで終わり。
 ハジメを仲間にして漸く、私たちの物語が始動する。
「そなたらの仲間となり、世界を笑姫と共に動かすため」
「ならば洗礼を」
「ならば洗礼を」
 魔力サークルが輝く。
 中央に横たわっているハジメの体が薄く光り始めた。


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| 笑師 | 18:10 | comments(0) | - |
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