其々の旅路

伯馬(リウハ)のオリジナル小説

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管理人:伯馬もしくはリウハ
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笑師 03
03
 覚えているのは、奇妙なアパート。ひどい風邪でも引いたかのような症状。
 ……僕は、目を覚ましたらしい。
「……夢……」
 そこは、僕の部屋だった。放り出されたスクールバッグに学ランのままってことを考えると、帰ってきてすぐに眠ってしまったらしい。
 ……どこからが夢だったんだろう?やけにリアルな夢だった。
「……お腹減ったな」
 窓の外は真っ暗で、デジタル時計は20:20で緩やかな点滅を繰り返していた。壊れているわけじゃなくてこれが正常、ケータイをとりだして見ると20:19。
 そういやいつ帰ってきたのかわからない……そんなに疲れてたのかな……。だからあんな夢を見たのかもしれない。
 やけにリアルに、柊と鵺の姿が思い出される。あの腰を抱いていた感覚とか、痛いくらいに握られた手とか……って何を思い出してるんだ僕は!
 ため息を吐きながらケータイに一通だけあったメールをチェックしてみる。母さんからの至って簡素な用件だけのメールだった。風邪で休んだ夜勤の人の代わりをするから夕飯は適当に何か食べて、ということだった。
 泣き付かれると弱い母さんはよくこういったことがあるので僕としては慣れたもので、普通の日常だ。
 明日は金曜日、土曜日が休みなので今週は明日で学校が終わりだ。
 ……そういや学校が終わりってよく使うけどよくよく考えたらとんでもない表現だよなぁ……。
 そんなことを考えながら僕は夕飯をカップラーメンで済ませ、宿題を適当に片付けて眠りについた。
 若干の、またあの夢が見れないだろうかという期待をしながら。

  *

 僕は目覚ましのピピピ……という電子音で目を覚ました。変わらずデジタル表示のそれは、06:00を点滅させている。
 ……いやまぁデジタル時計が朝起きたらアナログになってても困るけどね。
 そういや最近はデジタルなアナログ時計もあるよなぁ、日本語が矛盾している気がしてあれはあんまり好きじゃない。
 というか中途半端なゲームオタクの僕は単純にアナログ時計を見慣れていないというだけ。
 なんていう、意味の無い思考をぐるぐると巡らせつつ、僕は起き上がる。
 そしてそこで、あぁ今日は休みなんだっけ、と思って一瞬動きを止めたけれど、もう充分に覚醒してしまった様で眠る気にはならなかった。
 仕方がないのでパジャマ状態の部屋着のまま一階に降りる。
 土曜日……あぁ、母さんくらいいるのかな。でも僕だけだよな、こんな時間に起きてるのは……、……あぁそっか、まだ六時だから仕事行くにしても起きてないか。六時半くらいだもんな。
 朝ごはん……まぁいいや、適当に済ませてやりかけのゲームでもやろうか……。
 そのままぼうっとしながら朝食を済ませて僕は自分の部屋に戻り、着替えを済ませる。どうしてもゲームをする気にはなれなくて、僕は何となく夕日散歩道に向かった。
 何もする気にならなかった。やけにリアルなあの夢が頭から離れない。……もしかしたらこれが夢で、目を覚ましていないんじゃないか、とも考えたけれど、目はしっかりと冴えていて、これ以上覚めることは無さそうだった。
 柊も鵺も……虚構だった。そう実感してくると途方も無い喪失感に襲われる。あの世界が最初から無かった、というそれが、とてつもなく認めたくない事実だった。
「何をしてるんだ、僕は……」
 夕日散歩道を歩きながら思う。
 僕は今まで平凡を求め続けていたはずなのに、こんなにもあの非現実的な世界を望んでいる。
 何故なのだろう。
 あの不可思議な世界は、居心地が良かった気がする。
 夕暮れでない夕日散歩道を歩くのは久しぶりだった。学校が早く終わる事があるとふらふらそこに行くことが最近は無かったんだな、などと思う。
 夕暮れでない時でもこの景色は大好きで、僕は宛てもなくふらふら歩く。
 もしかしたら柊が現れるかもしれない。
 いきなり僕にキスをして、またあの世界に連れていってくれるのかもしれない。
 それを、望んでいる。
 それも、切実に。
「不毛だよなぁ……」
 あれが夢ならば、柊は最初から存在しないのだから、会えるはずが無い。これは意味が全く無い行為。
 ……でも。
「まぁ……いいや」
 今日は一日中ここにいよう。
 今日だけじゃなく、明日も、明後日も、夕暮れが、夕闇が終わるまで。
 柊が連れ去ってくれるまで。

  *

 正午近くまで歩き回って、さすがに疲れてしまった。昼食を取るために近くのファミレスに入る。
 住宅街の中にあるこのファミレスはチェーン店なので味に問題はなかった。
 支払いを済ませてまた僕は夕日散歩道に向かう。
 不毛な行動だ。
 それがどうした。
 助演男優賞を貰わなきゃいけないんだから。
 ……いや別にいらないけど。
 夕日散歩道は基本的に人通りが少ない。午前中にすれ違った人は漸く二桁という十人。
 勿論知り合いは一切居なかった。
 ……のだけど。
「……あれ……?」
 今すれ違ったその人は僕の学校の制服を着ていて、ブレザーの胸に光る校章は僕と同じ学年だった。
 勿論知らない顔があるのは当然だけれど、彼女はどこかで目にしたことがあるような気がした。
 黒髪を顔の両サイドで三つ編みのお下げにしていて、きっちりと制服を着ていて……。
「……高橋さん、だっけ」
 思い出した。
 ていうか、今も去年も同じクラス。……すぐに思い出せないのは、彼女が僕と似ているからかもしれない。
 そう、平凡な存在。
 ……もしかして、と思う。この夕日散歩道で平凡な彼女と出会うなんて。
「……あれ?」
 そしてお約束、彼女は落とし物をしていたのだ。
 それは小さなストラップだった。小さめの可愛らしい、けれども綺麗な音が鳴る鈴がついたそれだった。
 ……ストラップって普通、何かに付けるよな。でもこれは結んでいた跡もほつれもない。それに、落ちた音もしなかった。鈴、なのに。
「高橋さん?」
 後ろから少し大きな声で呼び掛ければ彼女はくるりと振り向いた。
 ……そういや名前知らないや。女の子のことを名前で呼ぶなんて柊くらいだったからな……。
「これ、高橋さんの?」
「……うん」
 こっくり頷いて彼女は右手を差し出した。けど僕との距離は五メートルくらい離れているから届くはずが無い。
 ……仕方なく僕は歩み寄って高橋さんの手にそれを乗せる。ぎゅ、と大切そうに彼女はそれを握った。
「大切なものなんだ?」
「……うん」
 こく、と彼女は頷いて、そうしてぺこりと頭を下げた。ありがとう、と言いたいのだろう。
 彼女はそういえば寡黙な人だった。……柊とは対称的に。
「……始めは、」
「ん?」
 彼女の声は小さく、耳を傾けなければ聞こえない。女の子たちがあまり好きではない存在だろう。
 暗い、とかそういう理由でいじめられたりするんだ。
 僕も似たような存在だったけど、どちらかといえば眼中にない、みたいなタイプだったのでいじめられたことはない。彼女もそうだ、って可能性もあるけどね。
「始めは、」
「ぅん、」
「……戻りたいの?」
 言葉を失った。
 つまりはそれは、
 君が言う「始めは」というのは。
 もしかしなくとも、「ハジメは」という意味?
 僕のことを、名前で呼んだの?
「……ぅ、あ」
 咄嗟に言葉が出てこない。
 彼女はそれを予期しているかのようだった。
「来週の金曜日」
「……ぅん、」
「ここに、来るの」
「うん」
「それまでは、この世界に大好きな人に大切な人たちにお別れを」
 そう言って、言うだけ言って、彼女は背を向けて歩きだす。
 聞きたいことは山ほど有った。
 だけど一切言葉にならない。
 わかっているはずだった。
 あの世界を求めることの意味を。

 僕は、成長を止める。

  *

 週が明けて、月曜日。
 僕はいつも通りに学校へ向かう。
 残った日数は、今日と約束の日を含めて五日。
 高橋さんはお別れを、と言っていたけれど、実際に直接言えるわけが無いのだった。
 ……だって、僕は異世界に行ってしまうので戻ってこられません、さようなら、って言うわけにもいかないし。
「……あれ?」
 クラスメイトのフレンドリーな人たちに声をかけられおはよう、と言いながら自分の席の横に立って、僕は違和感を覚えた。
 なんだろう……何かが足りない……ような。
「……あっ……」
 ふと思い至って確信して、そして信じられないので、僕は廊下側一番後ろの自分の席にカバンを置いて教壇に早足で駆け寄った。
 僕の担任の先生は真面目で、教壇の左隅に座席表がセロハンテープで貼りつけてある。
 そこには、高橋という名字は無かった。
 ……ありがち、な展開ではあるけれど、これは一体どういう事だろう……?
 ……高橋さんはこの学校にいなかった、ということだろうか……?だけれど僕は去年も同じクラスで、……記憶にあるかぎり彼女は一年中居たように思う。
 この世界にお別れを告げなければいけないということがもしも彼女に当てはまるなら、もっと早い段階で彼女はいなくなっていてもいいはず。
 考えられるのは、
 ……いややっぱり考え無いでおこう。
 僕は座席表から目を離し、自分の席へと戻る。まだ登校時間終了まで二十分もあるので教室に人はまばらだった。
 ……そうだ、高橋さんの席は窓側の列、一番後ろ。成る程、いなくなっても大して目立たない場所だ。あそこでいつも彼女は、……何をしていただろう。記憶に無い。というか彼女は僕と似たような思考だったらしく、確か成績もずば抜けて良いわけではなかったような。
 記憶に無いのも無理は無い、か。
「朝から難しい顔してんな」
「……え? あ、岡田。おはよ」
「おっす」
 僕の左隣の席に乱暴にスクールバッグを置いて、岡田は何が楽しいのかけらけらと笑っていた。
 ……そういや岡田って去年同じクラスだよな。
「ねぇ、この学年の高橋って名字の女の子知らない?」
「高橋?」
 岡田は記憶力がずば抜けている。他のクラスの平凡な寧ろ誰からも相手にされてないような男女の名前を完璧に把握しているくらいだ。
 ただし彼は興味が無いことに関してその抜群の記憶力を発揮でき無いようで、世界史と日本史はお得意なのに未だに四十七都道府県が言えない。どうやら「人」の顔や名前や性格などを覚えるのが得意らしい。
「この学年には男も女も、高橋はいないぜ?」
 その岡田が言うのだから間違いないだろう。
 これによって僕は、なんとなく彼女が言い残した「お別れ」の意味がわかった気がした。
 とてつもなく、嫌な予想だった。
「何言ってんだこいつ? 頭狂ったか?」
「え? 狂った?」
「ぅお!?……あ、いや、なんでもねぇよ?」
「そう?何か言わなかった?」
「いんや、なんも」
 ……あぁ、ごめん、岡田。今のは心の声だったみたいだね……。


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| 笑師 | 18:11 | comments(0) | - |
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