其々の旅路

伯馬(リウハ)のオリジナル小説

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管理人:伯馬もしくはリウハ
サイト名:其々の旅路
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笑師 04-1
04-1
 そんなこんなで、約束の日。夕日散歩道は綺麗な真っ赤な夕暮れだった。
 今日まで色々大変だった。
 心の声が、聞こえる。
 だから迂闊に反応できなくて、僕は人の口元を見て話す癖がついてしまった。
 そして次に困ったのが、話している声と心の声が重なって聞こえることだった。かなり困ったけど聞き取れなかったからもう一回、といえばなんとかなった。耳が悪くなったな、とか言われたけど、まぁ仕方がない。おまけに読唇術を少しだけ身につけてしまった。いらないスキルだな……。
 その次はやけに誰でもの声が聞こえることだった。授業中にあっちからこっちから声が聞こえてくる。これについては無視。話し声が多くなれば必然心の声は少なくなるらしく大して聞こえなくなるから静かな場所が多少苦痛なだけ。
 あと困りはしなかったけど人間以外の動物や昆虫の心の声も聞こえるようになった。ただし僕は人間なので言葉を訳せない。よってそれらは二重に鳴き声が聞こえたり、鳴いていないのに鳴き声が聞こえたり、まぁ支障はない。
 ……ドクタードリトルみたいに話ができれば楽しかったかもしれない。いや、……いらないか。
「柊に会ったのは……確か、こっちだよな」
 高橋さんから特に何も言われてはいなかったけど何となく僕は初めて柊に会った場所へ向かう。
 緩やかな坂。穏やかな夕焼け。
「柊……」
 坂の途中、大体同じくらいの場所に、セーラー服の柊は立っていた。
 夕陽を背に受けて、顔ははっきりとは見えないけれど。
「アナタは一体何を望むの」
「……柊たちのいる世界、かな」
「だったら!」
 すっ、とまた柊は尋常ではない早さで僕に顔を近付けた。
 けれどあの時より遠い。
 僕と柊の間には一歩分の距離が有った。
「何故、もっと早く望まないの」
 一瞬荒げていた声はすぐに彼女の冷淡にも聞こえる凛とした僕には心地よい声に戻った。
 その表情は、近づいた分はっきり見える。
 怒って、いるようだった。
「……どういうこと?」
「アナタが私たちの世界を望まないからアナタは洗礼を受けてすぐにそっちへ戻された。私たちはアナタを引き戻す方法を考えて、……会わせるはずの無かったハナに会わせた」
「……え、洗礼って終わったの?」
「終わったわよ、いとも簡単にあっさりと味気なく。つまらなかったわ、洗礼している最中に起き上がることを期待していたのに」
「無茶言うなッ!」
 柊は僕の様子にどこか満足そうな笑みを浮かべてから、一歩分、距離をつめた。
 ……期待するな期待するな期待するな期待するな期待するな僕ッ!
「具合が悪くならなかった?」
「え?」
「私たちと一緒にいた、最後の記憶よ」
 全く、本当に柊の話は唐突だ。
 それでもすでに慣れてしまっている自分自身をどうかと思う。
「何か風邪みたいな感じにはなったけど……」
「そして気を失った」
「ぅ、うん」
「洗礼は相手の意識が無い状態じゃないと行えないの」
 そうだ、あのアパート。あそこで……洗礼を行ったのか。
 ……そういえば僕を三人に会わせるとか言いながら結局鵺にしか会ってない。
「何か言いたいことがあるなら口に出しなさい」
「え、あ、うん?」
「アナタは洗礼を受けたからもう声が聞こえないのよ」
「あぁ、そうか……」
 洗礼を受けた者同士だと声は聞こえないんだっけ。じゃあ僕には柊の声も鵺の声も聞こえないんだな。
 ……ちょっと淋しいかも。うん、正直に言うと。
 勿論柊に言うつもりはないけど。
「柊が僕に会わせてくれる、って三人だったよね? 鵺にしか会ってないなと思ってさ」
「あら、もう一人、会っているでしょう?」
「あー……、そっか、やっぱり高橋さ「名字は厳禁よ」
 ばしん!……と強烈な音。
 柊に平手で叩かれた僕だった。
 いってぇ……。
「え、っと……」
 その威力にくらくらしながら僕は柊を見る。彼女は心底腹立たしいようで、ぎろりと睨まれてしまった。
 ……いや、うん。確かに名字で呼ぶのは良くないって教えてもらったけど、でも僕は女の子を気軽に名前で呼ぶような性格でもないしキャラでもない。
 ……もうちょっと手加減してくれても……。
「名前、覚えてなくて……」
 さすがに少なくとも一年間同じクラスだったから「知らなくて」とも言えなくて僕はそういった。
 しかし柊はそれがどうしたのかというような表情で。
「当たり前でしょう」
「だ、だって僕は去年一年間「同じクラスだった」
 また僕の言葉を遮って、さも当然のようにそう言った。
 ……うん、高橋さん(知らないんだから仕方ないッ!)が柊の仲間なんだったら、それくらいは知っていてもいいよな。
 だけど、僕が高橋さんの名前を知らなかったのは当然だって? 何が何だか。
「それは嘘だもの」
「……はい?」
 柊、順序立てて話す癖を付けた方が良いよ……、それじゃあまるで小学生だし。
 不謹慎にもセーラー服でランドセルを背負った柊を想像する僕だった。
 ……やばいちょっと似合う……ってそうじゃなくて!
「どういうこと?」
「笑師の能力の一つ」
 楽しそうに柊は、指をぴ、と立てる。
 何となく嫌な予感。
「えぇと……何て言ったからしら。……そう、記憶改変」
「記憶……」
「あぁ違うわ……、えっと……事実改変、だったわね」
 それはつまり。
 僕一人の記憶を改変したのではなく、この世界の事実を改変――した、のだろう。
 だから僕は高橋さんが一年間一緒にいたように思っているし……他の人も同様だ。
 去年の文化祭の日、それまでの準備の日、彼女は一体何をしていた?
 ――わからない。
 僕のクラスは、お化け屋敷だったのに。
 記憶より、事実――か。
「ハナ」
「え?」
「彼女は、高橋ハナ。英語の、FLOWER」
「花……」
 しかし僕にはまだ、はっきりと高橋さんの顔が思い出せないのだった。
 高橋花。
 それが本来の名前なのかどうか、僕にはわからない。
 「ハジメは戻りたいの?」と聞かれたあの時の表情すら――いや、彼女の顔自体がはっきりと思い出せない。
 彼女がそうなるように努めていたのだとしても、僕にはかなりの衝撃だった。
 事実改変……ね。
「他に聞きたい事は?」
 僕が黙ってしまったからなのだろうか、柊はそう聞いてきた。
 花のことについての思考は一旦やめて、僕は彼女に聞くべきことを考える。
 知りたいこと、か。いやまぁ山ほどあるけどいざとなったら出てこない。
 というか。
 柊が近いからだと思う。
 ……あれ、何か距離がさらに縮まってない……?
「何?」
「……顔、近くない?」
「そうかしら?」
「キス出来そう」
「すればいいじゃない」
「しねぇよッ!」
 なんて女だ。
 そしてこのやりとりも、夕日が沈みはじめた淡い紺色の夕陽散歩道で。
 住宅街ど真ん中。
 ……はっずかしー……。
「あぁ、ハジメはされるほうが好きなの?」
「違ぇよ! ……あ、いや、違うっていうか……」
「もう、照れ屋さんなんだから」
「言われたら何となく恥ずかしくなるはずなのに欠片もならないくらい真顔で棒読みじゃねぇか!」
「テレヤサンナンダカラ」
「お前は宇宙人か!?」
 うわぁ……どうしよう、猛烈に楽しんでいる自分がいる。
 柊はなんていうか……狙ったボケがうまいからな……。
「そういえば、ハジメ」
「ぅん?」
「宇宙人って絶対に『ワレワレハウチュウジンダ』なんて言わないわよね、だって私たちからしてみれば宇宙人かもしれないけれど相手にしてみれば私たちが宇宙人なんだから」
「わざわざ宇宙人の真似をしたのは褒めてやるがっ!長いうえにそれは誰しもが気が付いていたことだッ!!」
「一息で言ったら疲れたわ」
「そりゃあな! よく噛まなかったと誉めてやろうッ!」
「あら、ハジメにしては気の効いた事を言うじゃない。どうもありがとう」
 ……普通にお礼を言われちゃった。
 僕が黙ってしまえば柊はくすくすと笑い始めてしまった。
 うん、面白かったよ本当に! 柊ってば話は通じないのに笑いに関しては通じるんだな。
「話が脱線しすぎたわね……」
「お前のせいだよ……」
「ハジメのせいよ。はい、終わり」
「勝手に終わられた!」
「で、顔が近いですって?」
 話を脱線させるくせにすぐに元に戻したがるんだ……。
 というか無理矢理にでも戻さないと一生脱線を続けると自覚してるんだろうな。
「私、こっちの世界にいると左耳が聞こえないの」
 なんてことを考えているうちに衝撃の告白をされてしまった。
 ……左耳が聞こえないって?
「右耳も聞こえないことはないけど聞こえづらいのよ」
「そう……なんだ」
「あら、理由を聞かないのね」
「話したくないかもしれないだろ?」
 あまり根掘り葉掘り相手のことは聞かないようにするのが僕の信念……というほどたいしたものじゃないけれど、似たようなものだ。
 あらそう、と柊はさも意外だというように笑う。
「知りたい?」
 ……なんかその満面笑顔を見せられると首を横に振れません……。
「まぁ、気になるよ」
「私がこの世界にいたとき、聴力をほとんど持っていなかったからよ」
 ……この世界、か。
「って、あれ? 柊は……いつの人?」
「アナタたちが言うところの江戸時代前期よ」
「なのにセーラー服なのか!?」
「向こうの時代にいてもこの時代の流行り廃りはわかるの」
「あ、そうなんだ……ってさり気なくセーラー服は流行だと言ったな!?」
 監視……みたいなもの、かな。あぁきっとこっちの世界を見ながら僕のような「平凡」を探していたに違いない。
 ……そういやこの世界、って言ったよな。じゃあやっぱり、向こうではちゃんと聞こえるのだろう。確かに向こうにいたときは近づかれたことはなかったはず。
「……で、聞きたいことは?」
 うーん、あっさりすっぱり元の話題に戻されてしまった。
「……えーっと、」
 柊はとりあえず僕が疑問に思っていることを全て解決したいらしかった。とは言っても、わからないことがありすぎてどこから質問すればいいのかもわからない。
「……あぁ、そうだ、そっちの世界の仕組みを教えてよ」
「……難しいこと言うわね。私が説明下手なのを知っていながら」
「知らんて!」
「だってまだアナタに笑師を説明していないもの」
「……じゃあ、柊の言葉でいいから説明して。わからなかったら随時質問するから」
 僕の言葉に、仕方なさそうに柊は同意した。説明下手なのは本当らしく、僕はほぼ逐一柊に質問をすることとなった。
 ぐだぐだとそのやり取りを繰り返すのも面倒なのでまとめてしまえばこんな感じだ。


≫04-2
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