其々の旅路

伯馬(リウハ)のオリジナル小説

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管理人:伯馬もしくはリウハ
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笑師 04-2
04-2
 向こうの世界は僕がいた世界と似たようなものらしい。時間は同じように流れている。流れていても物体の成長が止まっているらしいから不可思議だ。
 いつからあの世界が存在しているのかは誰にもわからない。が、あの世界には触れてはならない存在があり、彼らは「創師」と名乗っているらしい。わかっていることは創師がこの世界を生み出したということくらいらしいが……僕はそれくらいわかっていれば充分だと思う。
 僕がいた世界から向こうの世界に行けば、成長が止まる。その理由はわからないらしいが、向こうから元の世界を見ることが出来るので世界の推移は誰でも簡単に知ることが出来るそうだ。
 で、ここからが本題。
 笑師とは何か?
 何で僕はこの世界に連れてこられたのか?
 笑師とは……。
 ……正直、説明を何度してもらっても僕にはよくわからないものだった。
 どうやらコウノウリョク、漢字で書けば「幸能力」というものがあるのだとか。何となく推察出来たので柊に「幸福を与えるの?」と聞けば、柊は「どんな能力なのか私も知らないの。使ったこともないわ」と答えた。……それは能力とは言わないんじゃないあだろうか。笑師の基本的な仕事は体力勝負らしい。柊自身も何故「笑」なのかをわかっていないのだから僕にもわかるはずが無いのだ。というか、彼女の説明を聞いている限り、笑師というのが一体何をするものなのかわかっていないような空気を感じた。彼女の職業……と言ったら変だろうが、役割とでもいうべきものなのに不思議なことだ。
 笑師は二人で一組。つまり柊と鵺だ。そして一組になった笑師はエミキ――「笑姫」を捜し出し、仲間にする。その笑姫が花。さらにもう一人――クウシ、という「クウの使い」を仲間にする。それが、僕だった。
 どうして僕が選ばれてしまったのかを説明する前に、まずはクウの使い――空使の説明を。
 空使は、全てを元どおりにする「回帰能力」があるそうだ。この力が、どうやら笑師と笑姫にはかなり重宝するものらしい。ただし僕はまだ一切そんな能力の自覚はない。柊はそれでいいの、と言っていたけど。
 さて、僕が選ばれた理由なんだけど。
 これがまたしっくりこない。RPGなら「生まれたときから決まっていた」だの、「勇者を示す紋様がある」だの、「神からのおつげ」だのと色々あるけど、至って単純だった。

 ――花がアナタを気に入ったから。

 笑師にとって、笑姫は絶対服従の相手なのだそうだ。能力値――ステータスに最初からかなりの開きがあるらしい。それだけではないらしいけれど、まだ時期じゃないと言って柊は教えてくれなかった。けれどここでも僕は違う空気を感じた。柊は説明が出来なくなると「まだ時期じゃないの」と言うのではなく「まだ時期じゃないらしいの」と言ったからだ。それはつまり、やはり彼女も正確な状況などを把握していないということなのではないだろうか?
 笑姫が空使を選ぶのも取り決まっていることなのではないらしい。本当にたまたま、なのだそうだ。空使は笑師にも笑姫にも服従しない、いつだって中立の立場らしい。
 そう、「いつだって中立」でなければならない。
 笑姫が空使を選ぶ際に、決まっていることが一つだけある。それが「人並みはずれて平凡を愛していること」らしい。
 ……うん、まぁ確かに。

 随分長くなったけれど……まとめてみればこんな感じだった。
 僕が一人で話を整理している間、柊はどこに行ったのかというと、……正直わからない。
 ちょっと待ってなさい、と命令されて(なんかもうすでに中立じゃない……)僕は依然、夕陽散歩道にいた。
 もう日はすっかり暮れて、真っ暗だ。住宅街なので街灯があり、ぽつぽつとオレンジ色の光が僕の周囲を照らしていた。ある意味、夕陽に見えなくもない色だった。
 柊に聞いてもわからなかったことがいくつかある。その一つが、彼女が再会した時に言った「どうしてもっと早くに私たちの世界を望まなかったの」といったニュアンスの言葉だった。
 僕は、とうにあの世界を望んでいた。
 平凡でなくともかまわない。柊たちと馬鹿やってるのが楽しかったから。
 僕がそう言うと、柊は尋問のように何度も「本当ね?」と念を押した。僕ははっきりと首を縦に振る。
 彼女は、変ね、と首を傾げた瞬間、腕時計を覗き込んで「待ってなさい」と告げたのだった。
 ……しかし……あれはテーマパークにいるネズミの時計だった。やたらファンシーな。
 ……柊はあぁいうのが好きらしい。ちょっと意外。
 僕は学ランのポケットに手を入れてケータイを取り出した。柊が行ってしまったのは、八時五分前。今は八時十五分だ。
 もう二十分も僕はここでぼうっとしているらしい。
 僕は平凡に、特に何もなく時間が過ぎ去っていくのが苦にならない。だからぼうっとしていていつの間にか何時間もすぎていた、というのは間々あることだ。
 ふと――
 ぐらり、地面が傾くような感覚に襲われた。何、と思うより早く襲ってくる、とてつもなく不快な症状。
 あぁ、僕はこの感覚を知っている。
 あの不可思議なアパートで襲われたあの感覚と同じだった。
 しかしそれは一瞬のことだった。
 ふと気が付けば僕はしっかりと自分の足で夕日散歩道に立っていた。
 なんだったんだ、今の感覚……。
 魔力に……当てられた? なら今この近くで、当てられる程の魔力が使われたということだ。
 何故? ――答えは簡単。つまりは柊だ。鵺がいるのかはわからないけど花はいるだろうから、もしかしたら二人や三人で何かしたのかもしれない。
 思っていると、上から柊が降ってきた。
「うわ!?」
 ざざ、というアスファルトを擦る音。……柊、ローファー傷つくよ?
 何故か空から降ってきた柊は長い髪をポニーテールに括っていた。砂ぼこりをぱん、と払ってから柊は漸く僕を見た。
「さ、行くわよ」
「……どこに?」
「決まってるでしょ」
 しかし柊はどこに行くのか教えてくれないまま歩きだしてしまった。
 仕方無しに僕は柊の隣に並び、歩調をあわせた。
 夕日散歩道はすっかり暗くなり、家々にも灯りは乏しく、時計に表示される時刻は午後九時を示している。
 すたすたと歩く柊の隣に並んで僕も歩を進めた。夕日散歩道を通り抜け、行き着いたのはマンション郡(僕としては群だと思うんだけど)だった。
 高級だったり平凡だったり陳腐だったりするマンションがある程度整頓されて立ち並ぶここは、この近辺に住む人々からそう呼ばれているだけで、勿論ちゃんと別の名前がある。しかしながら僕はそれを知らないのだけれど。
「ねぇ、」
 柊は道を知っているかのようにさくさくと歩いていく。迷いが無いのは当然かもしれないがついていく僕は会話しやすいように真横近い場所を歩いているので時々柊とぶつかりそうになってしまった。
「ん?」
「気分はどうなの?」
 それは一体どういう意味だろうか。柊は、僕が先ほど魔力に当てられたのかどうかを聞いているのか、それともこれから違う世界に行く気分はどんなものなのかと聞いているのか、果たしてどちらだろう。
 判断がつかず困惑顔の僕を見て、柊はそうね、と呟いてから言い直した。
「魔力に当てられた?」
 どうやら前者が正解のようだった。
 僕は頷きながら一瞬だけぐらりと来ただけだからと付け足した。
 柊は驚いた顔をしたけれどすぐに、そう、と呟くように言った。
「アナタは空使だものね……不自然ではないわ」
「どういうこと?」
 柊は自分の言葉が足りていないのを自覚しているのか、僕に何度も問いかけられているにもかかわらず、一切嫌な顔をしなかった。
 僕は質問攻めにするのもされるのもあまり好きではないのだけれど、そうは言っていられない状況が続いているので仕方が無い。
「回帰能力よ」
 回帰――回って、帰って来る。
 つまり「起こった事象を無かったことにする」のではなく、「さらに時を進めてあるべき姿に戻す」能力なのだと柊はいった。どんなものにでもある「元に戻ろうとする力」を利用するのが空使の能力なのだ、と。
「魔力に当てられたら、しばらくは動けなくなるのが普通なのよ。大体は四、五時間くらいね」
「けど僕は、一時間も経ってなかった……?」
「それどころか十分くらいだったんじゃないかしら。つまりアナタはアナタ自身を回帰したのよ、無意識にね」
 僕って、すげー……。
 とかなんとか言ってる場合じゃない。この能力は自在に操れてこそ「能力」と言えるはずだから、実際の所は僕が凄いわけではない。ただ能力が備わっている、例えればイレモノのようなものだ。
 いつになったら操れるようになるのかはわからないけれど、柊は問題ないわ、と言っただけだった。
「で、柊はこの世界でどこでどうやって魔力を使ったの?」
「どこで? ――ここよ」
 柊が立ち止まった視線の先を見やる。
 そこには、あの不可思議なアパートがででん、と構えていた。
 ……ででん、は古いか。

  *

「よ、ハジメ」
「鵺……、久しぶりだね」
「おぅ、一週間ぶりだな」
 ぎゃは、と鵺は特に何も理由はないのだろうけれど大袈裟に笑った。
 ここは勿論あのアパートの中。僕はあの時、アパートの中にまで入った記憶は無かったから中がどうなってるのかは今、初めて見たわけだけれど、見た目とはかなり違って、普通の部屋のように見えた。
 部屋には見慣れた格好をした鵺と、見慣れたブレザーの制服と、見慣れない黒魔術師がいた。
 ……えっと。
「ハジメ、」
「う、あ、はい」
「ふふっ、畏まらないの。私は高橋花。よろしくね」
 見慣れたブレザー――つまりは僕の学校の女子制服を身に纏っているのは花だった。僕が覚えている限りの「高橋さん」は、真っ黒な髪を顔の横で三つ編みお下げにしている無口な優等生だったけれど、目の前にいる花はそうではなかった。
 明るい茶髪は耳を緩く覆って波打ち、にっこり人懐こそうに笑う表情はかなり可愛らしい。
 たぶんこれが素の彼女なのだろう。
「うん、よろしく」
 多少驚いたけれど、でもまぁ、話しやすいかな。
「私たちを望んでくれてありがとうね」
「まぁ、うん」
 ぼんやりとした返事をすることしか出来ない僕を花はにっこり笑って見、鵺はげらげらと笑っており、柊は何故か苛立たしそうに眉をひそめていた。
 そして僕は不気味な衣装を身に纏ったもう一人に目を向ける。すすす、と音も無く近寄ってきたその人は随分と小柄で、身長は一四〇後半くらいだ。
「名を」
 しかし、低い声だった。バリトンやテノールってわけじゃない。どちらかといえば、そう、小学生が無理して低い声を出しているような声だ。
 なのに、とてつもない威圧感だった。体が固まって動かない。
「田中ハジメ……」
「我は長。一応はハジメマシテと言っておこうか」
 そう言って彼は顔を覆っていた黒いフードを脱ぐ。
 現れたのは、可愛らしい少年だった。
 真っ黒な髪を耳にかからない程度に切り揃え、真っ黒な瞳は僕を見上げている。
 そうか……、この世界では成長が止まるから一生子供のままなんだ。
「一応?」
「私は案内屋。洗礼師とも呼ばれるがな」
 成程、つまりは僕を「洗礼」したのが彼だということなのだろう。それなら僕が意識の無い時に対面しているわけだから、僕にしてみれば「ハジメマシテ」だ。
 洗礼か……、……そうだ、知りたいことがある。
「柊の口振りからすると、洗礼が終わって僕が『この世界を望んでいなかったから』元の世界に戻されたみたいだけど、」
「いや、それはそなたが空使だからだ」
 柊が会わせたかった最後の一人でもある長は、丹念に説明をしてくれた。どうやら彼は「案内屋」というだけだって、僕のような存在を案内する役目を持っているらしかった。
 僕は空使。空使の能力は回帰。どうやら僕はその回帰の能力が強いらしく、僕の体が無意識に回帰を行なったのだという。ただし「洗礼」を回帰出来る訳ではないので、体だけが元の世界に戻ってしまったらしい。
 洗礼終了後に元の世界に戻されるのは、この世界を望んでいないか空使の力が強いからかのどちらからしい。
「さっき、魔力に当てられたけど、」
「それは私の責任なの」
 今度は花が口を開いた。しかしどうしてこの人たちは僕に最後まで話させてくれないんだろう……。
 花はくるんと鵺に振り返り、にこ、と笑いかけた。鵺はそれだけで何かわかったのだろう、右手の中指を人差し指を揃えて伸ばし、あとは握って――要するによく見る術者の手の形で、それにふっと息をかけてから声と共に花を示した。
「レギュラー装填」
 音も無く、花の制服が姿を変えた。
 マーメイドライン……とかなんとか言うんじゃなかったっけ? 腰の辺りから足先に向けて窄まり、足元に来るとそれが広がって襞を形作り、端が波打っている。言葉通り人魚のような服だった。ドレスのような雰囲気がある。真っ白なそれはあちこちにスパンコールがちりばめられてきらびやかだ。上半身は首元に真っ白なフェイクファー、ノースリーブの肩口にもファーがついている。二の腕半ばまでは花の肌が見えていて、そこから手首に向かって真っ白な薄い生地で出来た手袋をしていた。
「へぇ……綺麗」
「私は笑姫だから」
 笑姫独特の衣装、ということだろう。確かに笑師である柊や鵺と比べたら、いや比べなくとも、戦闘向きの服装ではない。
 僕はといえば依然として学ランのままなわけで、柊も何故かまだセーラー服のままだった。
「ハジメが聞きたかったのは、私たちの世界を望んでいるのにどうして魔力に当てられるのか、ってことでしょう?」
「ん、あぁ、まぁね」
 本当は違ったんだけど、それも聞きたかったことだしそういうことにしておこう。
 花はまたにこ、と笑んで、右足を一歩引いた。その体勢のまま顔の前から両手で大きく円を描くようにして肩の高さで横に伸ばした。
「じっとしててね?」
 ぱちん、と音がしそうなウィンクをされて、僕はそこに棒立ちになった。
 花は服の裾を翻しながらくるりとターンする。いつの間にか彼女は両手に一本ずつ短い真っ赤なリボンを持っていて、リボンの両端には鈴が一つずつ、計四つついていた。
 またくるりとターン。今度は鈴がリン……と小さなけれど清らかな、どこかで聞いたような音を立てた。リン、リリン……、鳴り響く鈴の音に耳を澄ます。
 彼女はターンを繰り返し身振りを繰り返しながら、軽やかに踊っていた。まるで決められているかのような、儀式にも見える舞だった。
 シャン……。今度は僕の後ろで数個の鈴が一度に鳴る音。またシャン……と鳴るが、今度は目の前。そこには小さな鈴が十個ほどついた丸い輪を持っている柊が見えた。いつの間にか前に見た兵士のような服になっていた。おそらく後ろに居るのは鈴を持った鵺だろう。
「名を」
 リリン……と鈴を鳴らしながら花は僕を見た。真正面に立ち、身長差のために上目遣いをされながら。
 花の瞳は、漫画やゲームで見るような、神秘的な目つきに変わっていた。どこか虚ろな、どこか神がかったような。
「タナカハジメ」
「我らの仲間となるか」
「はい」
「ならば名乗れ。本来の名を」
「風祭」
 僕は知らずの内に何か答えた気がするのだけれど、その内容までは覚えていない。
 僕はそこで、また意識を飛ばしたからだ。


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